第9話 Perdendo 湖畔の悲劇
150 : Maestro 1996/08/06 未明 暗号化PDA内の記録文書
件名:プロジェクト・アウフタクト 緊急事態発生と最終シークエンス打ち切り終了
発生日時: 1996年 08月 05日 22:00頃 〜 08月 06日 03:00頃
発生事象: 参加者No.22 が、累積したBCI負荷によるパニック状態(推定)に陥り、自室を脱走。施設外の湖畔に向かう。
No.22の脱走を感知した参加者No.16がNo.22を追跡し、同じく湖畔に向かう。
監視モニターの画像・音声の解析結果、両名は湖の桟橋の手前で合流したものと推測。
音声記録1)No.16 が No.22 を呼ぶ声と思われるもの。
「静花!どこなの!静花!」と繰り返し叫ぶ声が確認された。
音声記録2)No.22が叫び返したものと思われるもの。
「来ないで!ハルカ!私はもうここにはいられないの!ハルカたちとは違うの!」
という言葉の断片が確認された。
結果:
水面に転落し、自力で湖岸に上がり気絶していたものと思われるNo.16を発見、救助。低体温症による意識混濁状態。
湖岸近くの水面に浮遊するNo.22を発見、救助するが、心肺停止状態。心肺蘇生法を試みるも程なく死亡を確認(8/6 00:30)。
決定事項および処置:
プロジェクトの即時中断: Project Auftakt 処置フェーズは、これをもって強行終了とする。最終シークエンスとして予定されていた参加者への不可逆的措置(侵襲型BCIの埋設処置)は中止する。
中止影響分析:侵襲型BCIは、放流後の少年たちの遠隔監視及び、万が一制御不能・心神喪失に陥るなどの不測の事態に際して遠隔制御あるいは最終措置を行うためのフェイルセーフ目的であり、監視及びサポートは旧来の人的資源による手法でカバー可能と判断。
情報隠蔽の徹底:Patronと連携し、本件の隠蔽を最優先事項とする。プロジェクトの非倫理的側面が露見することは、国家的な損失に直結する。対外的には「思春期の少女(No.22)の不安定な心理状態による突発的な事故死」として処理する。
また、No.22の居室に残された、参加メンバーに向けたものと思われる「ハルカへ」と第された封筒のメモは未開封のまま焼却破棄する。
残存参加者への記憶処置:プロジェクトの機密保持、および参加者の精神的安定の確保のため、以下の記憶処置を実行する。
- 対象A群(No.1, 2, 4, 7, 11): No.22 に関する全エピソード記憶、およびNo.16との関連性を選択的に消去(抉除)する。「No.22は初期に脱落した」「最終選考は6名で実施された」という偽装記憶を上書きする。
- 対象B(No.16 ): 対象Bはプロジェクト期間中、No.22と接点も多く、密接な関係性を構築していた。また、本件事象(No.22の死亡)に最接近・遭遇し、あるいは直接に関与した可能性が高く、精神的ショックも甚大である。対象A群と同様の部分的記憶編集では、拒絶反応も含め、人格の統合維持の妨げあるいは、致命的な崩壊を招く危険性を排除しきれないと判断。よって、より安全な措置として、合宿参加前日(1996/07/23)からの全記憶領域へのアクセスを遮断(ブロック)する。
カバーストーリー(A群向け):No.16は、プロジェクトの成果を全て放棄し、「自らの意思」で記憶の全消去を申し出た、と説明する。
上記全処置の完了をもって、Project Auftakt の処置フェーズを終了する。
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【用語集 -Notes-】
Perdendo(ペルデンド):
今回のタイトル。音楽用語で「(音の強さや速さが)だんだん消えていくように、弱くなっていく」という意味。No.22(静花)の命と、No.16の記憶が「失われる」という、今回の悲劇的な内容を象徴している。
No.22 / 小林 静花(こばやし しずか):
一連の投薬や施術、特にBCIの負荷に耐えきれず衝動的に脱走。湖にて死亡。Maestroの決断の遅れにより、プロジェクトの犠牲者となった。
No.16 / Clef(クレフ):
No.22(静花)の異変を察知、あとを追って湖に向かった。その後、意識不明で発見される。Maestroは事態を隠蔽するため、また、No.22の死亡とどのように関与していたかによっては彼女の人格に甚大な影響が及ぶ恐れがあるため、合宿参加前日以降の記憶へのアクセスを遮断するという非人道的な処置を決定した。
記憶処置(きおくしょち):
Maestroがプロジェクトの「罪」を隠蔽するために実行した処置。
・ナンバーズ(5名):No.22(静花)の記憶を「選択的消去」。
・No.16:「一定期間の全記憶へのアクセス遮断」。
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