第7話 初の練習試合で存在を覚えさせる

 練習試合当日を迎え、グラウンドには既に桜見サッカー部の面々が集結。


 相手の王坂サッカー部から、こちらに来るという話なので彼らは待つのみだ。


「……都大会前の練習試合が王坂か……嫌だなぁ……」


 闇坂影二は一段とネガティブで、暗い雰囲気を纏わせる。

 その彼に光を差し込むように話しかける者がいた。


「ヤミー、王坂って大木田以外に厄介なのっているの〜?」


 ネガティブと縁がなさそうな明るい笑顔で話しかける与一。

 王坂について厄介なプレーヤーが大木田しか分かってないので、他に要注意はいないか問い掛ける。


「司令塔の松田……ワントップのレオード……彼らが王坂の攻撃の主軸……右サイドの快足アタッカー、真野も厄介……」


「おー、結構いるね厄介なのがー。都大会準優勝校となると、タレント揃ってるんだねー。彼らが10点取ったんだ?」


「そう……ほとんど当時2年で……松田だけは1年だった……」


 攻撃陣の要注意選手を聞き、与一は理解したのか頷いていた。

 守備が大木田を中心に守って、タレント揃いの攻撃陣が点を積み重ねていく。


 それが王坂の得意とする必勝パターンだと。


「うちは強いのが竜斗と楽斗ぐらいだから……勿論これまで練習して……与一と輝羅が優れてるの分かってるけど……総合力は向こうが上だと思う……今日は何点取られるのか……」


 勝てるとは考えていない影二。

 完全に弱気にしてネガティブな言葉を並べ、そのオーラは強まるばかり。


「ショックだなぁ、僕達そんな信用ないー?」


 与一と影二が話している時、横から輝羅が口を挟んで参戦。


「というか強いのが2人だけって、それは自分を低く見過ぎだよねー?」


「え……」


 言ってる意味が分からず、影二は自分と真逆の存在と思う双子を見る。


「敵として見れば、僕はヤミーが一番怖いタイプだと思うよー」


「そうそう、こっちのチームに居てくれて助かるからー」


 与一と輝羅の言葉には戸惑う事ばかり。

 怖いタイプだとか居てくれて助かるとか言われた事が無い。


 勉強は普通でサッカーは得意だが、天才レベルで上手い訳ではない。

 何処までも目立たず、凄い者達の陰に隠れてばかり。


 自分が光り輝く事は無いと諦めていた。

 それが初めて言われた言葉に、暗闇のように暗い彼の心が明るく照らされた気がする。


「……僕、強豪相手に勝利に貢献出来る……?」


「勿論♪負ける事は絶対にないから、1点さえ入れば勝てるよー」


「1点さえって……まさか、完封勝利を狙ってるの……!?」


 昨年10点を自分達から取った王坂相手に、点をやるつもりは無い。

 1点入れば勝てるというのは、そういう事だろう。


 与一だけでなく輝羅も頷き、双子の気持ちは完全一致していた。


「「点を取られるの、大嫌いだから」」



 少し待つと、黄色いユニフォームを着た集団がグラウンドに現れる。


 王坂中の文字が入ってるので、彼らが練習試合の対戦相手に間違い無い。


「今日はわざわざお越しいただきありがとうございます」


「こちらこそ、今日はよろしくお願いします」


 代表して遊子が王坂中の監督へ挨拶。

 大人達が和やかな雰囲気で挨拶をする中、部員同士も顔合わせしていた。


「よ、去年以来か? 熱血君よ」


「──なんだよ、勝手に変なあだ名みたいに言いやがって」


 キャプテン同士で対峙する竜斗は、不敵に笑う大木田を見上げている。

 竜斗からすれば去年より大木田が大きく見えてしまう。

 事実、彼の身長は190cmと去年の185cmより伸びていた。


「睨むなって、これでも感心してんだぜ?」


 真ん中分けの黒髪を軽く右手で大木田はかき上げる。


「どうしようもねぇぐらい点差を付けられて、それでも声を張り上げまくって味方を励ます。あれを熱血と言わずに何と言うよ?」


 大木田は昨年の桜見と試合した時、その事を覚えていた。

 相手の竜斗が何点差を付けられても諦めず、立ち向かって行った事。

 それが今も印象に強く残り続ける。


「けど、今年は言っちゃ悪いが──去年程の力は無さそうだな。何より勝とうって気が見えない」


「……!」


 相手の大木田に見透かされてしまう。

 今の桜見サッカー部に、上昇志向が著しく欠けている事を。


「それでも容赦なく行くぜ? こっちは都大会優勝。更にその先の全国制覇を狙ってんだからな」


 大木田はそう言うと、王坂イレブンの元へと戻って行く。


「(あっちはしっかり上を見据えてんだなぁ……)」


 全国制覇を狙い、それに向けて動く大木田や王坂が竜斗は羨ましく思えた。

 本当なら自分もそうありたいと。



「──本当に大丈夫? やる前から勝負が見えてそうな雰囲気なんだけど」


 与一、輝羅がユニフォームに着替えて準備を進める。

 その兄の姿を見ながら神奈は相手と自分のチーム、それぞれを見ながら話す。

 チームの士気に違いがあって、明らかに相手の方が格上に見える。


「まぁ、押されるだろうねぇ序盤とかー」


「強気に攻めてくると思うよー、守りに入る理由があんま無いしー」


 与一も輝麗も分かっていた。

 相手が積極的に出て来る事は、彼らの心を読めば分かる。


 2桁得点してる相手に対し、大量得点で勝ってやろうという気持ちが。


「とにかく見ててよ神奈」


「桜見サッカー部の新しいスタートをね」


 双子は揃って妹へ優しく微笑むと、フィールドに向かう。

 その後ろ姿を神奈はベンチから見守る。



 青と黒のストライプの桜見、GKは白。


 黄色いユニフォームの王坂、GKは赤。



 桜見中学 フォーメーション 4ー5ー1


        赤羽

         9

   室岡   鈴本   霧林

    8     10     11

      宮村  闇坂

       5    14

  新田 神明寺(与) 大橋 西村

   2   24    3   4

       神明寺(輝)

         23


 王坂中学 フォーメーション 3ー6ー1


       レオード

         11

 田中     松田     真野

  14       10      7

   東田   綿山   坂口

    8     5     13

   野坂  大木田   山川

    3     6    4

        板野

         1


 両チームがフィールドに集い、ポジションに着けば開始の時を待つのみ。

 先攻は桜見で竜斗と楽斗がセンターサークルに立つと、その前にボールが置かれる。


 ピィ────


 今日の練習試合を捌く主審によって、開始の笛が鳴り響く。

 竜斗が軽く蹴り出して、楽斗が後ろへ戻した。


「! 大きく前へ蹴り出して! 来てるよ!」


「え!? わっ!」


 後ろから輝羅がボールを持つ宮村へ声を掛ける。

 宮村には早くも相手のエース、レオードが迫っていた。


 これに慌てながらもボールを前方へ大きく蹴り出して、王坂のDFラインまで伸びていく。

 大木田が胸でトラップすると、早々に球が向こうへと渡ってしまう。


「(相手はセンター、GK共に低い。ならこうだろ!)」


 背の低い神明寺兄弟を見れば、今日の試合は何時も以上にハイボールが有効。

 そう見ていた大木田は桜見ゴール前へと右足で、長距離のパスを空高く蹴り出す。


 力強い大木田のロングパスが、グングンと伸びて桜見ゴールに迫る。

 このハイボールに180cmの長身FW、レオードが跳躍へと入った。


 ガッ


「うぐ!?」


 腰を落として飛ぼうとした刹那、右から衝撃が伝わってジャンプのタイミングが狂ってしまう。

 そこには与一がレオードの屈んで低くなった右肩を狙い、思いっきり肩口からぶつかって行ったのだ。


 レオードからすれば死角から急に現れ、不意討ちを受けたようなもの。

 ボールは流れてGKの輝羅が難なく両手に収める。


「 (なんだ、レオードの奴……調子悪いのか? 太陽の眩しさとか今ないのに)」


 天候は曇りで、太陽は今出ていない事を大木田が空を見上げて確認した時──。


「走れ右ー!」


 輝羅がパッとボールを離し、地面に落ちる前に左足で蹴る。

 低空飛行のパントキックが右サイドを走る霧林へと向かっていた。


「(凄い正確!?)」


 走る自分の前に落ちてきて、驚きながらも霧林はその球に追いつく。


「っ!? カウンター! 戻れ!!」


 サイドが前に出ていて薄い所を突かれ、大木田は不味いと声を張り上げる。


「キリ!」


 竜斗が右手を上げて球を要求。

 それを見て霧林は低いパスを右足で蹴る。


 高さある大木田と真っ向から、ハイボールで挑んでも勝ち目は限りなく薄い。

 なので、グラウンダーの球だろうと霧林は判断。


「うぉっ!」


 そこに竜斗が走り込んでボールを取ろうとするが、大木田の長い右足が伸びて来る。

 ボールは弾かれて右のタッチラインを超えると、桜見ボールのスローイン。


「くっそ……!」


 悔しがる竜斗の隣で、大木田は額の汗をユニフォームの袖で軽く拭う。

 彼としては急なカウンターが飛んで来て、ヒヤリとさせられた形だ。


「(今の狙って来たのか、あの小せぇGK……!?)」


 視線の先には桜見ゴールを守る輝羅の姿。


 双子が今、強豪達に自分達の存在を刻みつけようとしている……。


 ────────

 与一「小さいからハイボールに弱くてちょろい、とかおもってるよねー」


 輝羅「絶対思ってるって、けど通さないんだなこれがー」


 与一「僕達まだまだこんなもんじゃないんで♪」


 輝羅「次回は徐々に向こうもエンジンかかって来るよー!」

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