納期に追われる転生者、魔王を倒して異世界永住を目指します!

@h-ar-u

第1話 未定

 ピンポーン

 
「――はい、魂番号16番、えっと……ハラ・リョウさん。お待たせしました~」


 まるで銀行の呼び出しみたいな軽い音声が、真っ白な空間に響いた。


 俺の名前は原涼介(はら・りょうすけ)。

 享年25歳。


 享年…というのは、どうやら俺は交通事故で死んだらしいからだ。


 信号待ちでスマホゲームのイベント報酬を確認してたら、背後からクラクションと衝撃。

 画面に「通信が切断されました」と出た次の瞬間、俺の人生も切断されていた。

 
 そして気づいたら、この真っ白な空間にいたのだ。

 番号を呼ばれて受付に行くと、そこには羽根つきスーツの女性が立っていた。金髪の髪色に黒スーツ、白い羽根を持つ彼女が放つオーラは美しく、いかにも天使だった。

 そして、ピシッと着飾ったスーツの中で、一際目立つ胸元の双丘。日本人はおろか、地球人規模で考えてもそれに敵う人類がいるかどうか…


“巨”を通り越して、“爆”。…はたまた“超”が好きな俺には嬉しい限りだ。


 …天使はみんなデカいのかな…




「はじめまして。天界転生管理局・地球課、案内係のミラです。えっと……事故死、とのことですね。大変でしたね」


 淡々とした声。


「実はですね……」

 とミラが説明を続ける。


「今回の事故、天界的には“異例”なんです。天界のシステムトラブルが招いた事故でして…」


「……トラブル⁉︎」


「ええ、まぁ。で、その件をうちの上司――神様が気にしましてね。“悪いことしたし、何かで埋め合わせを”って」


 受付の奥にある本部っぽい部屋から神様っぽい人がこっちをのぞいて、ひょいと手を挙げた。

 
「すまん!」
 ノリが軽い。


「そのお詫びとして、特別に異世界転生の許可が下りました」


「えっ、マジで!? 異世界転生!? あの有名な!?」


 思わず身を乗り出した。

 
 俺はゲームも小説も大好きな、典型的なオタク。もちろん、異世界転生モノにも目がない。

 それに、できれば自分も転生してみたかったのだ。


「転生……したいです!」


「即答ですね……。あー、やっぱりこうなると思ってました」


 ミラは明らかに面倒くさそうに額を押さえた。


「正直言うとですね、転生はめっちゃ手間なんですよ。普通の成仏なら楽なんですけど、転生は記憶・人格・意識をそのまま他国へ送るんです。もう、魔力消費が激しくて……」


「えっ…そうなの!?」


「だから、本音を言うと、転生なんかして欲しくないんです」


「ちょっ……ひどくない!?」


「でも、上司(神様)の命令なので仕方ありません。とりあえず、最低限の契約説明をしますね」


 ミラがパチンと指を鳴らすと、俺の胸に光る紋章が浮かび上がった。

 
 歯車のような円形の紋章。


 青白く光っている。


「これは聖印ルーン。魂の維持装置です。異世界転生では、あなたの魂は転生先で不安定になります。そのため、定期的に魔力結晶ユーティリティコアを天界に送ってもらわないといけないのです」


「……魔力結晶ユーティリティコア?」


魔力結晶ユーティリティコアとは、あなたの異世界転生先であるアストルディア王国に蔓延る魔獣が倒されるとドロップするアイテムのことです。あなたにはこれを集めて送信してもらいます」


「なるほど」


「ただし、そんなに簡単ではありませんよ。彼らは体内に魔力ユーティリティを持っており、それを使って“魔術“を繰り出します」


「魔獣が“魔法“を使うんですか?」


「“魔法“ではありません。使うのは“魔術“です。“魔法”を使うのは人間です」


「?」


「人間は本来、魔獣とは異なり、体内に魔力ユーティリティを持ちません。しかし、魔獣が倒されるとドロップされる魔獣結晶ユーティリティコアを剣や杖に装着させた特別な武器ーー魔具を使うことで、“魔法”を扱うのです」


「つまり、魔獣のマネごとですね。ちなみに私たち天使は魔力を持っているので、魔術が使えるんですよ!」


 天使は得意げに話す。


「つまり…“魔法“を駆使して“魔獣“を倒せと…」


「そういうことです」


「でも良かったです俺。死んだのはショックでしたけど、夢だった異世界転生ができて…」


「それはどうも。でも昔は異世界転生は地球からも頻繁に行ってたんですよ」


「そうなんですか?」


「はい。原因は天使の堕天です。天界出身で元天使だった現在の魔王がアストルディアに堕天した際、天界の魔力を盗んでいったことが原因なんです。それまでは天界の有り余る魔力で地球からの異世界転生もたくさん行ってました」


「そうだったんですね」

 魔王、元天使なのかよ…。もし女性なら胸もデカいのか?


「ちなみに、魔力結晶ユーティリティコアを送らないとどうなるのですか?」


聖印ルーンが劣化して、魂が消滅――つまり強制成仏しますね。まぁ、日々迫られる納期にさえ間に合えば大丈夫ですよ!…過酷ですけど…!」


「それに安心してください。期限管理は自動通知されます。ピンポーンって鳴ります!」


「その音、めっちゃトラウマになりそうなんだが!?」


「あっ…ちなみに、転生先のアストルディア王国の暦は日本と同じですので安心してください」


「嬉しいような…嬉しくないような…」


「そして、ここで重大ニュース! アストルディアの魔王を倒すと、王国中の魔獣が消え、ユーティリティコアがすべて天界に自動送信されます」


「それ、すごい……!」


「でしょ? そうなれば、転生者への仕事が減って私の仕事が楽になります!」


「結局そこかよ!!」


「まぁ…あなたが魔王を倒せば、天界としても安定するってことです。天界の魔力が豊富になればあなたの魂は完全に固定される。つまり、異世界に永住することが可能になります」


「永住!? つまり、成仏する心配もないの!?」


「はい。成仏もせず、異世界ライフ無期限コースです。よかったですね。まぁ…私はさっさと成仏してくれてもいいんですけど」


「ひどいな!」


「では、転生前に重要事項をまとめますね」


 ミラがクリップボードをめくりながら言う。


 ①あなたはアストルディア王国に転生


 ②冒険者ギルドで冒険者登録をすることで、王国内での魔獣と戦う権利を得られる。そして、魔獣を倒して魔力結晶ユーティリティコアを集める。


 ③コアは定期的に天界へ送信(期限厳守)

 ※未送信=強制成仏なので注意


 ④魔王を倒せば王国の全魔獣消滅+ユーティリティコアが天界へ自動送信→天界側がウルトラ楽になり、異世界への永住が可能になる。


 ⑤仕事が楽になるから、私としてはすぐ成仏してくれてもいい


「最後のだけ本音混じってない?」


「……はい。混じってます」


「素直か!」


「では、契約署名を。指でここに」


 ミラが差し出したのは、タブレットのような透明な板。

 
 画面には俺の名前と、

“納期:7日以内にユーティリティコア100個送信”

 の文字。


「一週間で100個!? それは大変なの?」


「はい、大変だと思います。でも死ぬ気で頑張ってください」


「励ます気ゼロ!!」


「ちなみに、アストルディアの最弱魔獣であるスライム1体で1つの魔力結晶ユーティリティコアがゲットできます」


「えっ? …それが本当なら、この納期かなり大変じゃ…」


「はい…私としては早く仕事を楽にしたいだけですから」


 ピンポーン♪

 場内アナウンスが鳴る。

 
「そろそろ時間ですね。それでは、転生処理を開始します。……あ、伝えるの忘れてました。私はあなたの頭の中に常駐してますから」


「えっ、マジで!?」


「納期忘れ防止アシスタントです」


「催促アプリかよ!!」


 そして俺は、眩しい光に包まれた。




 次の瞬間、土と風の匂いが鼻をくすぐる。

 
 目の前には広大な草原と、遠くにそびえる城壁。

 
 アストルディア王国――新しい世界だ。


「……よし、ここからが俺の異世界生活だ!」


 ピンポーン
《ミラ:初回納入期限、7日後です》


「うるせぇ!!」

 …納期に追われる異世界生活、開幕である。

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