第15話

「ラミリア?」


 真菜は思わず彼女の名前を呼んだ。

 何でギルドマスターの部屋に呼ばれたのか。

 その疑問を解決するのを忘れてその名前を呼んだ。


「うむ。ちょうど、君の話をしていたところだよ」

「閣下。彼女が?」

「ああ、そうだ」


 ラミリアの対面に座っていた若い男性が立ち上がった。

 金髪のサラサラロングヘア。その髪の間からはとがった耳がのぞく。


「よく来てくれたね。僕はマイルズ・ジルダニアン。冒険者ギルドサンテラリア支部のギルドマスターを務めているよ」

「……エルフ?」


 改めてマイルズと相対し、真菜は目を丸くしていた。

 その理由は、彼の耳を見たからだ。

 マイルズがギルドマスターであるのは、この部屋に案内されたことで予想がついていた。

 ギルドマスターの執務室に呼ばれて、ギルドマスターがいないなんてことはあるまい。

 だから、驚きの理由は、この世界に来て初めてエルフに出会ったことだ。

 知識としてはエルフがいることは知っていたのだけれど。


「ああ、エルフに会うのは初めてかい?」

「うん」

「無理もないね。獣人やドワーフ、リザードマンなどと違ってエルフは引きこもりだ。人里にいるエルフは変わり者なんだよ」

「そうなんだ」


 きっと単純にめぐりあわせの問題だと思うのだけれど、サンテラリアに来てからまだ一度も獣人、ドワーフ、リザードマンを見かけていない。

 そのうち見かけたりするとは思う。

 しかし最初に出会ったのが、マイルズ曰く一番珍しいらしいエルフだったというわけだ。


「ふむ、ふむ……」


 マイルズは顎に手を当て、真菜をためつすがめつ。

 そこには一切の好色なものはなく、純粋に気になるというか……いや違う、何かを測るような。

 決して気分のいい視線ではなかった。


「なるほど。閣下がおっしゃったことはうそではなかったようだ」

「なんだ、疑っていたのか」

「いえいえ。しかし、僕は自分の目で確認できるならしたいたちなんですよ」

「知っているよ。面倒なやつめ」

「ふふふ、お褒めいただいたと思っておきますよ」


 してやられた……というほどではないが、やりにくそうなラミリア。

 ひょうひょうとしたマイルズ。

 置いてけぼりにされた真菜。

 三者三葉である。


「……まったく。しかし、婦女子を不躾にじろじろ見るのはいただけんな」

「いやあ、そこを突かれると痛い」


 と言いつつマイルズは全く悪びれていない。


「相変わらず口だけのやつめ。で、どうだ?」

「彼女の実力が本物であるのは理解しました。Eランクからのスタートではいかがですか?」

「ふうむ。もう一声いかんか?」

「いえ、それはやめた方がいいです」


 ここでマイルズはそのへらっとした態度を改めた。

 そこにいるのは間違いなく、サンテラリア支部のギルドマスターとしてのマイルズだった。


「何故だ?」

「登録したての者は基本的にGランクから始まり、最初は街中の依頼のみ。Fランクで街の周辺での活動許可。Eランクで日帰りの範囲内で街から離れることが許可されます」

「ああ、そうだったな」

「Dランクになると野営のほか冒険者として必要な基礎知識や技術を取得していること前提の依頼ばかりになります。つまり、Dランクになれたら冒険者として一人前とみなされるわけです」

「それらを学ぶ機会を奪う羽目になる、か」

「ええ。Eランクの依頼にはそういうのを学べる依頼がいくつもございます。初級者は失敗しながら覚えていくものです」

「ではEランクから始めるのが妥当か。というわけだ真菜、どうだ?」

「……」


 なるほど。

 つまるところこれもまた、ラミリアから真菜へのお礼なのだろう。

 わざとらしさがあったが、それを見せていることすらきっとわざと。

 しかしそれを差し引いても、Eランクから始められるのはありがたい。

 最初はGランクからだという。きっと最初は掃除や失せもの探し、運搬といったものが対象なのだと思う。

 別に街中での依頼が嫌というわけではない。

 だけどEランクから始めた方が、受けられる依頼の幅が広がって良さそうだ。


「構わないなら、Eランクからがいいかな」

「そうか。じゃあそういうことだ。マイルズ、頼んだぞ」

「ええ、ちゃちゃっとやっちゃいましょう」


 マイルズがテーブルの上に水晶玉を置いた。

 促されてそれに手をかざすと水晶が数秒淡く輝いて。

 台座の隙間からポンとカードが出てきた。

 出てきたカードをちょっと確認し、マイルズが手渡してきた。


「はい、これが君のギルドカードだ。いかなる理由でも、紛失すると弁償だから気を付けて」

「うん、わかった」


 結構しっかりしている。

 ラミリアから受け取った市民カードと同じだ。

 重ねてみると若干市民カードの方が大きいか。


「それで、これだけのために?」


 まさか。

 そんなはずはないだろう。

 そう思って尋ねると。


「察しがいいな。もちろん用事はこれだけじゃないさ」

「そうなの?」

「ぢょうど君が現れたから来てもらっただけで、本来は会うつもりはなかったからな」

「なるほど」


 つまり、先ほどのやり取りはすでにラミリアとマイルズの間では終わっていたことだったのだろう。

 それを取り急ぎ受付に伝え終えたところで、件の少女がやってきた。

 ギルドマスターとラミリアの連名で「Eランクからのスタートとする」少女。

 そんな異例ともいえる対応がされた少女が現れたので、受付側が気を利かせてここに連れて来た、といったところか。


「目的を果たすのはこれからだよ。せっかくだから、真菜にも同席してもらいたいな」

「わたしも?」

「僕からもお願いしたい。閣下は直接目の前で相対した。同時に全体を俯瞰した君の意見を聞いてみたい」

「それって……」

「そうだ。君と出会った、昨日の件だ」

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