捨てるか、戻すか

宮(ミヤ)

捨てるか、戻すか

癖とは怖いものである。


その人物の癖は、床に物が置いてあることが許せず、すぐに片づけることであった。


子供の頃から脱いだ服が置かれたり、ゴミが落ちていることも許せず、床に何かがあると毎回、捨てるか元あった場所に戻していた。それは過剰なものであり、彼女ができてもその癖で毎回口論になり、別れることも多かった。


一人暮らしになるとその癖は一段と増し、彼の部屋の床はゴミ1つなく綺麗なものだった。

もちろん、その癖は職場でも例外ではなく、誰よりも早く出勤しては床掃除をするため、常に彼の部署は綺麗であった。


そんな彼に転機が訪れた。朝早く熱心に掃除をする彼を社長はいたく気に入り、彼を昇進させ、自分の娘を紹介した。彼女は彼の癖も受けいれてくれ、やがて2人は結婚し子供もできた。


自分の癖を受けいれてくれた嫁と子供のいる日々。なんて自分は世界一の幸せ者なんだと思った。


しかし、幸せの日々は長く続かなかった。

成長し、彼の子供がハイハイしだしたのだ。


普段はとても愛おしく思える対象が、四つ足でフローリングに置いてある時だけはとても醜く、不快に思えて仕方なかった。


何度も嫁にその事を相談しようと思ったが、自分が子供を「物」として観ていることを打ち明けられず、悩む日々が多くなっていった。


できうる限りベビーベッドに寝かせていたが、子供が起きていると、ハイハイの練習をさせるため嫁が

フローリングへと遊ばせる。


ベッドに戻しては、遊ばせるために嫁が床に置き、ベッドに戻しては嫁が置き、戻しては、嫁が置き、戻しては、置き。置き。 もう選択肢はなかった。





1ヶ月後にある記事が流れた。男が妻と子供を惨殺したという事件だった。殺害方法はあまりに酷く、遺体の状況は記載されていなかった。警察の調べによると、犯人は何度も「戻しただけ…」と供述していたということだった。

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