第一章 第十五話「八号車」

 風属性寮に留まった八号車というバスに乗る。この学校には各寮を巡るバスが九本ある。バスは抽選で決まるらしいのだけれど、私とセイラは奇跡的に同じだった。そしてフェドリクも。私とセイラが一番後ろの五人掛けシートの一つ前の二人掛け席に座っていたら、フェドリクは後部座席に座ってきた。私の桃色の髪の毛は目立つので、すぐに見つけたらしい。声をかけられた。

「君も八号車なのか」

 あ、お前呼びから君呼びに変わった。

「そうだよ?一緒だね!妹のセイラも偶然一緒になれたんだ!」

 するとフェドリクは目を見開き、次の瞬間笑い出した。

「バスが本当に抽選で決められているとでも?」

 え?違うの?

「それなら何で決められているの?」

 すると彼は考え込むような顔になった。

「……学校からの期待度、といったところ、かな」

 期待度?私が首を傾げていると、フェドリクは話し出した。

「この学校には、約四百五十人の生徒がいる。その生徒達全員を九台のバスで送るんだ。約五十人が一台のバスに属することになる。しかし、このバスには二十人ほどの生徒しか属していない」

 そうなんだ。

「一号車には百人が属しているにも関わらず」

「百人!?」

「そう。今度見てみると良い。あり得ない程長いから」

「何故そんなことが起きているのですか?」

 セイラも気になったらしく、フェドリクに質問する。

「誰だ?ああ、カレンの妹か。そう、俺はバスによって明らかに人数に差があることに気がついた。そしてバスのメンバー表を調べてみたんだ。すると、面白いことが分かった」

「何が分かったの?」

「号車の数字が大きくなるにつれて、成績の良い者が集められているということが分かった。九号車はほぼ全員アサンブレ・ドナーのメンバーばかりだった。それに対して、一号車は成績が振るわなかったり、素行が悪かったり、魔法のレベルが全く上がらなく低い者ばかりが集められていた。おそらくバス内での優劣の差が目立たないようにそうしたんだな」

 別に一緒でも良いのでは、と思ったけれど、学校の方針なのだろう。ただし格差があるのかないのかはよくわからない。バスが成績順に決められていた、と知ったら生徒達はどう思うのだろう。八号車は座高の高いそれなりに大きめのバスで、ブロンシェ王国のモンフォール魔導商会製。燃料として「灰石」という曇った空のような色の水晶のような質感の魔石が使われる。「灰石」はブロンシェ王国の属する大陸の鉱山全体でよく撮れる。車体は光をよく通す「エメラルディン」という大理石のような質感で美しい緑色の石で作られていて、座席は公共の場で使われるようなバスとは違って、ずらっと二人掛けのシートが一列に二脚ずつ並んでいる。シートには茶色い起毛の生地が使われている。見たところ他のバスもたいして作りに差は無いように見えたけど……

「一緒に目指そうな、九号車」

「え?」

 静かになっていたフェドリクが突然言った。

「そこはすぐにお前を越して九号車に移ってやる!でしょ」

「カレンも妹も、才能はありそうだからな」

「認めてくれてるんだ?」

 学校に着くまで私とセイラ、フェドリクで延々と喋り続けていたのだった。

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