第19話 黒霧の追撃
森の静寂が、剣のぶつかる音で切り裂かれた。
金属の火花が散り、リオンは兵士の剣を受け流す。
「……やっぱり本気で殺しに来てるな。」
「当然よ。彼らにとって私たちは異端者だもの。」
イリスが詠唱を始め、光の矢が空へと走る。
「《ホーリー・レイン》!」
純白の光が降り注ぎ、兵士たちの陣形を崩す。
だが、その中から一人の男が前に出た。
黒い鎧に金の刺繍、そして腰には異形の剣。
「――退け。これは神の意志だ。」
その声には不気味な響きがあった。
リオンの背筋が冷たくなる。
「お前は……聖王院の誰だ?」
男はゆっくりと兜を脱ぎ、微笑んだ。
「第十三師団、監視官アルバ。
創造の子――リオン・アークライト、我らが探し人だ。」
「探し人、ね。
あいにく、捕まる趣味はない。」
リオンが剣を構えると、アルバの瞳が黒く染まる。
「黒霧、展開。」
その言葉と同時に、地面が脈打つ。
漆黒の霧が彼の周囲から湧き上がり、兵士たちの鎧を覆った。
「……これ、まさか!」
イリスが息を呑む。
「神造遺物の力よ!」
アルバの剣が異様な音を立てて変形する。
黒い蔦が刃に絡みつき、脈動していた。
「神の拒絶――《ノクス・ブリンガー》。
この力の前では、創造など塵に等しい。」
「言ってろ!」
リオンは地を蹴り、アルバに迫る。
光の剣と黒い刃がぶつかり合い、衝撃波が森を揺らした。
「《創造:双閃剣》!」
リオンが両手に光刃を創り出す。
だが、アルバは笑みを浮かべたまま受け止める。
「やはり似ている。
創造と拒絶――二つの極は、同じ源から生まれる。」
「どういう意味だ!」
「知りたいなら、王都へ来い。
だが今は……その命、試させてもらう!」
黒い刃がうなりを上げ、リオンの肩を裂いた。
血が飛び散る。
リオンが苦悶に顔を歪めると、アルバが低く囁く。
「創造は神の権能。
人がそれを持つこと自体、罪なのだよ。」
「……罪、か。」
リオンが目を閉じる。
次の瞬間、空気が震えた。
「なら――俺は、罪を創る!」
光が爆ぜる。
彼の足元に、無数の魔法陣が展開した。
「《創造:無限光刃陣(インフィニティ・エッジ)》!」
空中に浮かぶ百を超える光の剣。
それが一斉にアルバへと放たれた。
轟音。
黒霧が吹き飛び、木々が折れる。
だが、アルバはまだ立っていた。
黒い障壁が、彼を包み込んでいた。
「見事だ。だが、拒絶は創造の天敵。」
アルバが手をかざすと、リオンの剣が砕けた。
「……!?」
「創られたものは、拒絶によって消える。」
イリスが駆け寄り、結界を展開する。
「リオン、下がって!」
「だめだ、ここで止める!」
「無茶よ!」
アルバが笑う。
「無駄だ。人が神の理に抗うことなど――」
その瞬間、背後の茂みから小さな声が響いた。
「やめて!」
ミナだった。
震える体で前に出て、両手を広げる。
「お願い、もう戦わないで……!」
アルバが目を細める。
「……獣人の子か。
ふむ、あの村の生き残りか。」
「お前……!」
リオンが怒りで声を震わせる。
「ルヴェルを襲ったのはお前たちか!」
「神の教えに背いた異端者の村だ。
粛清は正義だ。」
その言葉が、リオンの心を完全に切った。
「正義だと……?」
彼の瞳が光に染まる。
「なら、俺は罪の創造者でいい。」
爆発的な魔力が溢れ出した。
地面が砕け、光が天へと伸びる。
アルバの黒霧が一瞬にして押し返された。
「《創造:神槍アークレイ》――!!」
巨大な光の槍が生成され、アルバに突き立つ。
衝撃で黒い障壁が砕け、彼の体が吹き飛ぶ。
森の木々をなぎ倒し、地面に叩きつけられる。
煙が晴れると、アルバは片膝をついていた。
血を吐きながらも、なお笑っている。
「……やはり、君は危険だ。」
「二度と、俺の前に現れるな。」
「そうはいかん。
我らは君を神の器として必要としている。」
その言葉を残し、アルバの体が黒い霧に包まれ、消えた。
静寂が戻った。
リオンは膝をつき、息を荒げていた。
イリスが駆け寄り、彼の肩を抱く。
「リオン、大丈夫!?」
「……ああ、なんとか。」
ミナが涙を浮かべて近寄る。
「ごめんなさい……私のせいで。」
リオンは微笑み、頭を撫でた。
「違う。お前がいたから、俺は怒れた。
それでいい。」
イリスが空を見上げる。
黒霧が消え、青空が広がっていた。
「でも、これで完全に敵に回ったわね。
王国も、聖王院も。」
「それでも、進む。」
リオンは立ち上がり、剣を握り直した。
「俺は創る――人が神に奪われた未来を。」
遠く、山の向こう。
聖王院の大聖堂では、アルバの報告が響いていた。
「創造の子、確認。
その力、神格域に到達しつつあります。」
玉座に座る白衣の男――聖王が微笑んだ。
「やはり、時が来たか。
創造の子と拒絶の遺物――世界を再構築する時代が。」
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