第14話 再会の刃
薄明の森を抜けると、そこは崖の上だった。
朝霧が流れ、遠くに広がる草原が淡く輝いている。
リオンは深く息を吸った。
冷たい空気が胸の奥にまで沁みる。
イリスが小さく背伸びをした。
「……やっと、王都の気配が消えたわね。」
「そうだな。」
「これから、どうするの?」
リオンは少しだけ空を見上げた。
「とりあえず北へ。辺境に解放の町があるらしい。
スキルに頼らない傭兵や放浪者が集まる場所だ。」
イリスが微笑む。
「私たちに、ぴったりね。」
「まあ、肩書きなんて、どうでもいい。」
リオンは剣の柄に触れる。
「必要なのは――力と、意志だけだ。」
そう言って歩き出した時だった。
風の中に、微かな気配が混じる。
「……誰かいる。」
リオンが即座に身構える。
イリスも杖を構え、魔力を練った。
次の瞬間、空気が裂けた。
風鳴りと共に、一本の赤い閃光が走る。
リオンは反射的に剣を抜き、受け止めた。
金属音が森に響く。
目の前に立つのは――紅の髪の女。
「……久しぶりね、リオン・グレイ。」
その声に、リオンの目が見開かれた。
「……セラ?」
紅蓮の剣士、セラ・ノア。
かつて王国騎士団で、リオンに剣の基礎を教えた恩師。
だが、今その瞳には懐かしさではなく、冷たい覚悟が宿っていた。
「どうして……貴女がここに?」
「命令よ。あんたを連れ戻せって。」
セラは剣を引き、構えを取る。
「抵抗するなら、斬る。」
「待て! 俺はもう王国とは関係ない!」
「知ってるわ。」
「なら、なぜ――」
「だからこそ、殺さなきゃいけないの。」
風が止まった。
次の瞬間、二人の剣がぶつかる。
リオンは全力で受け流すが、セラの一撃は重かった。
彼女の剣からは紅蓮の炎が散り、地面を焦がす。
「紅翼流――!」
「覚えてるのね。」
セラの動きは速く、正確だった。
まるで、戦うこと自体が祈りであるかのように。
リオンは苦し紛れにスキルを発動する。
「《模写》!」
光が閃き、セラの剣筋を完全に再現する。
剣と剣がぶつかり、火花が散る。
だが――
セラは微笑んだ。
「成長したわね。でも、形を真似しても、心は真似できない。」
彼女の剣が弾かれ、リオンの肩を裂いた。
熱い痛みが走る。
「リオン!」
イリスの声が響く。
だがリオンは手で制した。
「……やめろ、イリス。これは俺の戦いだ。」
セラの剣が止まる。
その瞳が、かすかに揺れた。
「まだ……戦うの?」
「逃げない。たとえあんたが敵でも。」
リオンは剣を構え直す。
血が滴り、地面を染めた。
「俺は、もう誰の所有物でもない。」
「……そう。」
セラは静かに息を吐く。
「なら、確かめてやる。
あんたの創造が、本物かどうか。」
二人の間に再び火花が散った。
炎と光。
互いの力が拮抗する。
だが、次の瞬間――リオンの剣が変化した。
「……なっ?」
セラが驚愕する。
リオンの剣が、紅蓮の光を放った。
それはまるで、セラの剣を“創り変えた”かのようだった。
「模写じゃない。創造だ。」
リオンの瞳が、静かに光る。
「俺は、あんたの剣を超える。」
刃が交わり、爆ぜる光の中で、セラは初めて笑った。
「……やっぱり、止められないか。」
剣を下げ、セラは一歩引いた。
「勝負あり。
少なくとも、今の私はあんたに殺意を向けられない。」
「セラ……」
「勘違いしないで。これは情けじゃない。」
彼女は冷たい瞳でリオンを見据える。
「次に会う時、私は本当にお前を殺すかもしれない。」
「なら、その時は……全力で抗う。」
「いい答えね。」
風が吹き抜ける。
セラは背を向けた。
「リオン。あんたの創造が人を救うか、それとも滅ぼすか。
――その結末を、この目で見る。」
紅蓮の影が森に消える。
残されたのは、静かな風と、血の匂いだけだった。
イリスが駆け寄り、リオンの肩を支える。
「傷が……ひどいわ!」
「平気だ。浅い。」
「嘘。」
「……少し、懐かしい匂いがしただけさ。」
リオンは苦笑した。
遠くで、夜明けの光が差し込む。
その光を見つめながら、彼は呟く。
「師匠……次は、絶対に負けない。」
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