永遠に読み終わらないとうわさの本の真実とは?
- ★★★ Excellent!!!
近未来、『ホワイトブック』と呼ばれる一種の電子書籍が実用化された社会。紙のように薄い電子ペーパーを冊子にする事で、紙の本と電子書籍の良さを良いとこどりにした本。この短編SFは、ホワイトブックを扱う図書館に、永遠に読み終わらない本があるといううわさがあって、というもの。
本作のこの設定、とても良く練られています。なぜ、このホワイトブックが公共の図書館でしか扱われないのか、ホワイトブックのメリットはどんなものがあるのか、作中で語られる設定には、いかにも近未来に本当にありそうなリアルさを感じます。
そのホワイトブックというギミックを活用したラストもお見事。本好きなら、この本を手に取ってみたいと思わされる事、間違いなしです。
以下、核心に触れるネタバレ要素なので、スペース開けます。
初見の方には解説しないと分かりづらい本作の魅力がもう一つ。この作品、さなコン2025 というSF短編コンテストの参加作品です。そのテーマは『その図書館には、奇妙なうわさがあった』で書き出すというものでした。つまり、数百という作品が参加したこのコンテスト自体が、作中に登場する謎の正体のメタファーになっているのです。
参加するコンテスト自体を作中に取り込んだこの構成は、参加作品の中でも随一と思わされました。参加者でもあった僕は、本作を初めて読んだ時、作品中に自分が登場したような不思議な感覚に襲われたものです。
オススメです。ご一読を。