第44話 嵐の果て ― 神環者の光
雷鳴が、世界の鼓動のように響いていた。
夜の森が白く染まり、光と風が混ざり合う。
嵐の中に、二つの影。
テンペスト・ヴォルグ。
そして、星宮星牙。
空が割れ、地が震える。
その中心で、二人の魔力が交錯した。
「崩壊こそが美。
壊れぬものなど、存在の侮辱だ!」
テンペストの叫びとともに、雷光が螺旋を描く。
彼の背後から、無数の雷槍が現れた。
《嵐帝降臨(テンペスト・ディサイド)》
雷が落ちた瞬間、大地が弾け飛び、
一帯が爆風に飲み込まれる。
だが、その中心に――光があった。
小さな星が、嵐の中で静かに輝いている。
星牙の周囲を、光の粒がゆっくりと回転していた。
「……それが、お前の全力か?」
静かな声。
テンペストが眉をひそめた。
「まだ立つか。……ならば、星よ、沈め」
再び雷撃。
風と閃光が同時に襲いかかる。
しかしその瞬間、空気が止まった。
音が――消えた。
「な……っ」
テンペストの表情がわずかに歪む。
星牙の瞳に、淡い光輪が浮かぶ。
星の紋が、右の手の甲で輝いていた。
「……嵐は、空を削るもの。
だが、星は空の“理(ことわり)”そのものだ」
掌を上げる。
光が静かに集まり、世界が再び動き出す。
《星滅衝(スターインパクト)》
瞬間、光と音が爆ぜた。
天空から巨大な流星が落ちるような閃光。
風が逆流し、雷が飲み込まれる。
テンペストの身体が宙に跳ね、空間が裂けた。
「馬鹿な……これが、“神環者”……ッ!?」
光が収まったとき、テンペストは膝をついていた。
右腕が焼け落ち、周囲の空気すら震えている。
星牙は静かに歩み寄る。
「嵐は、止まった」
テンペストは、笑った。
「……あぁ、確かに止まった。だが――お前の星は、まだ眠っている」
その言葉を残し、彼の体は光の粒となって消滅した。
残ったのは、焦げた匂いと、冷たい風だけ。
星牙はしばらくその場に立ち尽くしていた。
右手に残る熱を、じっと見つめる。
(……これが、“神環者”の力)
心臓が早鐘を打つ。
けれど、不思議と恐怖はなかった。
(使うべき時が来たなら――もう、迷わない)
星牙は夜空を見上げた。
雲の隙間に、一つだけ星が瞬いていた。
⸻
一方その頃、学院の作戦室。
教師陣と上層部が集まり、モニターの前でざわついていた。
「……テンペストの反応、消失」
「会長由璃は生存。だが、幹部級の消滅報告は初だ……」
「報告をまとめろ。ただし――この情報は秘匿だ」
年老いた男がゆっくりと口を開く。
「星が、再び輝いたか。
……だが、光が強いほど、影もまた深くなる」
部屋に沈む沈黙。
その外では、夜が静かに明けようとしていた。
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