第43話 星と嵐 ― 星牙VSテンペスト

テンペストが消えた直後、森にはまだ雷の匂いが残っていた。

焼け焦げた木々、焦土のように黒く染まった大地。

遠くで倒れる会長の姿を一瞥し、星牙は息を潜めた。


(レンたちは無事……か。会長も、ギリギリ持ちこたえたみたいだ)

その瞬間、空気が震えた。


“風が、笑っている”。


「……やはり、来たか」

低い声が、夜気を裂いた。

テンペスト・ヴォルグが、闇の中から現れる。


黒と紫のオーラが渦巻き、周囲の木々が音もなく消えた。

「星の光――いや、“星”そのもの。お前の存在、久しく感じていた」


「お前は……テンペスト・ヴォルグ」

星牙が名前を口にすると、テンペストがわずかに笑った。


「ほう、名を知っているか。

 だが知識だけでは、この嵐は止められぬぞ」


星牙は一歩踏み出す。

風が割れ、雷が弾けた。


「言葉はいらない。……来い」


瞬間、光と風が衝突した。


嵐が吠え、星が閃く。

テンペストの雷刃が一直線に走り、星牙の頬を掠めた。

その刹那、地面がえぐれ、数十メートル先の木が粉々に吹き飛ぶ。


「速い……だが、見える」


星牙の掌がわずかに光を帯びる。

《星落掌(スターフォール)》――無数の光粒が空間を照らし、

雷の軌道を先読みするように弾けた。


テンペストが口角を上げた。

「なるほど、噂通りだ。

 だが、“嵐”の真価は速さではなく――支配だ!」


叫びと同時に、世界が反転した。

風が重力をねじ曲げ、雷が空間を裂く。

星牙の足元が崩れ、空に放り出される。


「くっ……!」

雷が迫る。

しかし次の瞬間、星牙の瞳が光を帯びた。


「……星は、堕ちない」


掌が空に向けられ、光が瞬いた。

《重星崩(グラヴィティ・メテオ)》


小さな光点がいくつも生まれ、それが一斉に降り注いだ。

重力を帯びた星の欠片が嵐を押し返し、

テンペストの体を地面に叩きつけた。


轟音と閃光。

森の大地が爆ぜ、衝撃波が走る。


テンペストがゆっくりと立ち上がる。

その瞳には、興奮と――愉悦が混じっていた。


「素晴らしい。

 やはりお前こそ、“神環者・星”……伝説の再来か」


「そんな呼び名、どうでもいい」

星牙の声は静かだった。

「……お前がここにいることが問題だ」


「なるほど。ならば――証明してみろ。

 “星の輝き”が、嵐を超えられるか!」


雷光が夜を裂いた。

風と雷の竜が天を昇り、

それを迎え撃つように、星が地を照らした。


光と嵐が交差し、

空が、割れた。

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