第40話 異常の夜
夜の森は、まるで息を潜めていた。
虫の声ひとつしない。
昼間あれほど騒がしかった鳥たちの姿も、どこにも見えなかった。
焚き火の灯りがゆらめく。
パチ、パチ、と乾いた音がやけに耳に残る。
「……なぁ、静かすぎないか?」
リードが周囲を見渡す。
風は止まり、木の葉一枚さえ揺れていない。
「北の森って、夜はこんな感じなの?」
レンが小声で尋ねた。
「違う」
星牙が短く答えた。
彼の目が、夜の闇を細かく追っていた。
空気の流れ、魔力の循環――そのどれもが、微妙に“歪んでいる”。
「レン、火をもう少し弱めて」
「え? う、うん」
炎が少し小さくなる。
次の瞬間。
森の奥から、風が“逆流”した。
「……え?」
ミナが思わず声を漏らす。
焚き火が吹き飛び、炎が真上に跳ねた。
まるで――空気そのものが反転したようだった。
「全員、構えろ!」
リードの叫びと同時に、木々がざわめく。
バリバリッ!と耳を裂くような音。
次の瞬間、一本の大木が雷を受けて粉々に砕けた。
「雷……?いや、違う!」
ヴァルの声が震える。
「魔力の雷だ……しかも、尋常じゃない規模」
「――っ」
星牙は一歩、前へ出た。
遠くの空が、紫色に染まっている。
(空が……鳴っている?)
ゴロゴロ、と腹の底に響くような低音。
それは自然の雷鳴ではない。
圧倒的な“存在の咆哮”――そう呼ぶべきものだった。
「やば……あれ、何……?」
レンの視線の先、森の外れに巨大な光柱が立ち昇っていた。
雷雲が空を覆い、風が渦を巻く。
まるで世界そのものが“呼吸”を忘れたかのように、
空気が張り詰めていく。
「……始まったな」
星牙が低くつぶやいた。
「星牙?」
「この風、嫌な予感しかしない。……嵐が来る」
雷鳴が轟いた。
空が裂け、森が光に染まる。
その光の中心に、ただ一つ、影が立っていた。
嵐を従える人影。
その瞳は、狂気のように冷たかった。
――魔王軍 幹部、第七席。
嵐の執行者・テンペスト・ヴォルグ。
世界が、静かに震え始めていた。
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