第41話 嵐の執行者 ― テンペスト・ヴォルグ

雷鳴が、夜空を裂いた。

光の柱が消えたあとには、まるで世界そのものが息を呑んだような静寂。


一拍遅れて、轟音と暴風が森を飲み込む。


「――避けろッ!」

リードの叫びと同時に、全員が地面へ身を伏せた。

瞬間、巨大な竜巻が斜めに駆け抜け、十数本の木々を根こそぎ吹き飛ばす。


「何が起きてるの!?」

レンが悲鳴を上げる。

星牙は何も言わず、ただ空を見上げた。


そこに、一人の男がいた。


宙に立ち、腕を広げ、黒い風と雷を従えている。

白銀の髪が揺れ、青紫の瞳が淡く輝いた。

衣の裾が風に舞い、声が――まるで風そのもののように響く。


「風は形を持たず。雷は理を裂く。

 ――よって、命とは崩壊するためにある。」


その言葉とともに、森の一角が跡形もなく消し飛んだ。


「やばい……っ!」

レンが顔を上げる。

「何あれ……人間じゃない!」


「人間じゃない……そうだな」

星牙は呟いた。

胸の奥で、何かが共鳴する。

嫌な記憶の残響。

あれは、かつて幾千の戦場で見た――“幹部”の力。


(……テンペスト・ヴォルグ。嵐帝(風×雷)属性……!)


星牙が歯を噛み締めた瞬間、通信魔法の光が頭上に浮かんだ。


『全生徒に告ぐ――避難を開始せよ!

 学院防衛隊および上級生は北の森へ向かえ!』


会長・由璃の声だった。

その声は静かで、けれど確固たる意志に満ちていた。


「由璃さん……行く気だ」

ヴァルが息を呑む。


「学院を守る。それが“盾”の役目だろう」

星牙が小さく呟いた。


雷鳴が轟く。

夜空に広がる雲が一瞬割れ、白い光が大地を照らした。


由璃が、そこにいた。

純白のマントを揺らし、聖なる光の輪を背に浮かべて。


「あなたが――魔王軍の幹部ね」


「ほう? 聖光の加護を持つ者か。

 この夜に、神の代弁者が来るとは」


「私は神ではない。

 ただ、守ると決めた場所を――護るだけよ」


由璃が両手を組み、聖なる陣を展開する。

《聖域展開(セイクリッドドメイン)》


テンペストが笑った。


「ならば試そう。お前の“守り”が、この嵐に耐えられるか――!」


轟音が空を裂き、雷光が地を焼く。

会長と幹部、二つの超越者の戦いが、夜の森で始まった。

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