第39話 森の中の静寂 ― 訓練開始
森は、想像以上に深かった。
踏み出すたびに地面が沈み、枝葉のざわめきが不気味に反響する。
「……空、見えないね」
レンが見上げる。枝が重なり合い、太陽の光はほとんど届かない。
「ここで三日間、か」
星牙は呟く。周囲の空気を感じ取るように目を閉じた。
森の奥から微かな魔力の波――しかし、今のところ敵意はない。
班は六人構成。
星牙とレン、支援魔法のヴァル、索敵担当のセレスティア、盾役のリード、そして治癒魔法士のミナ。
「まずは拠点を作ろう。魔物との遭遇は避けられない」
リードが前を歩きながら言った。
頼れる三年生で、星牙たち一年の班をまとめるリーダーだ。
「北の森は、二重構造になっている」
セレスティアが地図を広げる。
「表層は通常の魔物。だけど、下層には瘴気が強くて――上級魔導士でも危険」
「下層には入らないように、ってことか」
星牙が確認する。
「そう。だけど……例年、何かしら“落ちる”班がいる」
ヴァルの声が冗談めいていたが、目は笑っていなかった。
その言葉を裏付けるように、森の奥から“低い鳴き声”が響いた。
一瞬で空気が張り詰める。
「――来る!」
レンが構えた。指先に小さな炎が灯る。
次の瞬間、茂みを破って狼型の魔獣が五体、飛び出した。
黒い毛並みに紫の紋章。瘴気をまとった個体だ。
「燃えろ、《火刃乱舞(フレイムスラッシュ)》!」
レンの炎刃が弧を描き、先頭の魔獣を斬り裂く。
「《聖環障壁(サークルガード)》!」
ヴァルの光の結界が前衛を守り、星牙がその隙を突いた。
星の輝きが指先に集まり、地面がわずかに震える。
「――落ちろ」
《星落掌(スターフォール)》
輝く光の粒が空中で弾け、残りの魔獣たちを一瞬で消し飛ばした。
戦闘は、ほんの十秒で終わった。
「……やっぱり、強いね」
ミナが苦笑する。
「一年とは思えない」
「まだ様子見だ。こいつらは“入り口の番犬”だろう」
星牙が答える。
瘴気の流れが、ほんのわずかに濃くなっていた。
(この感覚……自然じゃない。誰かが“増幅”させている)
「星牙?」
レンが覗き込む。
「少し顔が怖いよ」
「……何でもない。行こう」
そう言って、星牙は前を向いた。
陽の届かぬ森の奥で、冷たい風がひときわ強く吹き抜けた。
その風には、明らかに“何かの意志”が混ざっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます