第27話 淡い光、交わる想い

アストラ学園都市の夜は、昼の喧騒を残したまま、

街灯と魔導灯の淡い光に包まれていた。


「今日……ほんとに楽しかったね」

レンが両手に持つ紙袋を軽く揺らしながら言った。

中には小物や本、カフェの紙袋。

星牙は隣を歩きながら、空を見上げたまま静かに頷く。


「……そうだな」


「そうだな、だけ?」

レンが少し頬を膨らませる。


「言葉が少なすぎるんだってば、ほんと」

「俺は、必要なことしか言わない」

「それじゃあ……少し寂しいよ」


その一言に、星牙の歩みが一瞬止まる。

でも何も言わず、再び歩き出した。

街路樹の影が二人の足元を流れていく。



ふと、魔導車の音が背後から響いた。

スピードが少し速い。

舗装路の端に、雨上がりの水たまり。


(……まずい)


反射よりも速く、星牙の体が動いた。

レンの腕を掴んで引き寄せ、壁際に押し付けるように庇う。

同時に、車輪が水を弾く音。


バシャァッ――!


レンのすぐ横で水が散った。

ほんの少しでも遅れていたら、びしょ濡れだった。


星牙の片腕は、レンの肩越しの壁に。

もう片方は、腰に。

顔が――近い。

呼吸が混ざる距離。


「……危なかったな」

低い声が、すぐ耳元で響く。


レンは目を見開いたまま、何も言えなかった。

星牙の黒髪が光に照らされ、瞳の奥に夜の星が映っている。

胸の鼓動が、痛いほど速い。


「っ……ありがとう」

「別に。お前が濡れたら、面倒だからだ」

「……そっか」

レンは小さく笑った。

「そういうことにしておくね」


ほんの数秒。

それだけの出来事なのに、永遠みたいに感じた。



二人は再び歩き出した。

でも、さっきまで自然だった会話が、少しぎこちない。


「……」

「……」


レンがちらっと星牙を見上げる。

星牙の表情は変わらない。

だけど――耳が、赤い。


(ずるい。そういうとこ、ずるいんだよ)


街灯の光が二人の影を重ねた。

レンがそっと呟く。


「ねぇ、また……こうして出かけようよ」


「……別に、構わない」


「それ、約束だからね」


「……あぁ」


すれ違う人の声、街のざわめき、風に揺れる木々の音。

全てが遠くに聞こえる。


その瞬間――

レンの心に浮かんだのは、ひとつの確信だった。


この人の隣にいると、怖いくらいに心が落ち着く。

たとえ、世界が壊れても――この時間だけは、守りたい。


魔導灯の光が彼女の髪をやわらかく照らし、

夜風の中で、二人の影がゆっくりと重なっていく。

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