第26話 休日の街、星と炎
アストラ学園の休日――
学院都市の中心街は、学生たちの声と魔力の灯りで溢れていた。
魔導具店、カフェ、占い屋。
どこも人で賑わい、空気はきらきらと眩しい。
「――で、なんでそんなに緊張してるの?」
「……別に。してない」
星牙は視線を逸らしたまま、歩く速度を少しだけ上げた。
レンは横でくすっと笑う。
「嘘。さっきから腕、ちょっとだけ固いよ?」
「……お前がいきなり腕掴むからだ」
「え? 人混みだからだよ。はぐれたら困るでしょ」
星牙は言葉を失う。
(……困るのは俺の方だろ)
そんな心の声は、もちろん口には出さない。
レンはそのまま楽しそうに話を続ける。
「ねぇ、せっかくだし色んなお店見て回ろうよ。
あ、あそこのアクセサリー屋さん、かわいくない?」
指さした先には、クリスタルや魔石のブレスレットが光っていた。
店先には“魔力共鳴アクセ”と書かれている。
「これ、ペアでつけるとお互いの魔力が安定するんだって。
ほら、戦闘の時に共鳴がズレないようにするやつ」
「……ペア?」
「うん。ペア」
星牙が小さく眉を上げると、レンはわざとらしく視線を逸らした。
「ほ、ほら!チーム的にね!ほら、魔力の相性とか、大事じゃん!」
星牙は少しだけ笑う。
「そうだな。……どれにする?」
「え?」
「お前が選べ」
「な、なんで!?」
「俺は興味ない。お前の好みでいい」
レンは頬を赤らめながら、小さな水晶のペアを手に取った。
淡い青と金色。
それは、二人の魔力色と同じだった。
「……これ、いいかも」
店員が包みながら微笑む。
「お似合いですよ。きっと素敵なペアになります」
「ち、ちが……!そういうのじゃなくて!」
レンが慌てて手を振ると、星牙が静かに笑った。
「……まぁ、似合ってるとは思うが」
「なっ……!」
「色の話だ」
レンは真っ赤になって俯いた。
「ずるい、そういう言い方」
「褒めてるだけだ」
「だからずるいの!」
そのあと二人は、
カフェで魔導ラテを飲み、
書店で魔導理論書を眺め、
夕方には公園でひと休みしていた。
レンがベンチに座りながら、ふと空を見上げる。
「ねぇ、今日……楽しかったね」
「そうだな」
「こうやってのんびりできるの、久しぶりかも」
星牙は無言で頷き、
レンの髪にかかる夕陽を見つめた。
オレンジ色の光が、風に揺れる髪を染める。
その横顔は、戦場で見せるどんな表情よりも穏やかだった。
「……星牙?」
「なんでもない」
「ふふ、変なの」
「お前こそ」
レンはふっと笑い、
空に浮かぶ星を指差した。
「ねぇ、あの星……私たちが初めて出会った日の空にもあったよね」
「……覚えてるのか」
「うん。小学生のとき。
あのときも、今日みたいに風が気持ちよかった」
静かな時間が流れる。
そして――
「また、一緒に見ようね。
次の休みにも」
星牙は少しだけ息を飲み、
それから、静かに頷いた。
「……あぁ」
彼の返事に、レンは微笑む。
その笑顔は、夕焼けよりも眩しかった。
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