第七話
……『三年生を送る会』の準備が、それなりに順調に進む中で。
『高校入試』の日が、やってきた。
正直、付属中学あがりの僕にとって。
高校入試の仕組みが……イマイチわからない。
「試験には違いないわよ。受かればいいのだから」
「
「わたし『一般入試』だったなぁ。あ、それは来月あるほうね」
「そうだ!
「前の高校だよね? えっと……『共通選抜第一次選考』かな?」
えっ……なんですか、それ?
「とにかくテストだよ、テスト!」
同じく付属の割に、『あの成績』だった
僕の記憶上では……確か。
主流の進路である『
「えっ? なんか……レベル違わない?」
そう気づいて、半泣きで勉強していた気がするけれど……。
「なにいってんの! アンタと同じヤツ受けて。ちゃんと合格してるから!」
い、いやそれはだな……。
「なんだか、二年前が懐かし・い!」
ここで、経験者の波野先輩が。
話を割って入ってきて、きょうの『推薦入試』について解説しはじめる。
「英数国の試験でしょ、あと面接」
「面接、ですか?」
「うん、グループワークと、個別面接の両方があるんだ・よ」
そ、そんなのがあるんだ……。
じゃぁ、市野さんの場合は?
「一般入試は、英数国理社か、英数国と個別面接だよ」
「で、どっちにしたの?」
「面接のほう、だって五科目だと大変だもん」
なるほど……。
と、いうことは……。
思わず、みんなの目が一斉に。
三藤先輩へと、集まってしまう。
「な、なによ?」
「グループワークとか、無理だ・よ・ね・ー」
「個別面接も、苦しいですよね」
「じゃぁ、
「当然、五科目一択でしょ!」
「答えを知って……あなたたち。なにか楽しいのかしら?」
少し不機嫌そうな声で、三藤先輩が答えて。
思わずみんなが、ニンマリとする。
……と、そこまでは平和だったのに。
「じゃぁ次、昴君の高校受験の思い出は?」
「え、えっ……」
玲香ちゃんに聞かれて、僕はどう答えたらいいのかたじろいでしまう。
「なに? どうし・た・の?」
波野先輩。近い、近いです。
ま、まぁ別に終わったことだから。きっと話していいんだろう。
そう思って、僕は……。
「……受けてないのっ!」
……ちょっとさぁ。
みんな、同じリアクションだったくせに。
「
わたしだけ
「付属からだから、『試験』がなかったってことだよね?」
「いま思えば、あれが『面接試験』だったのかも……」
ちょっと待って……。
わたし、きちんと『ペーパーテスト』受けたんですけど?
アイツの話しによれば。
中学のとき、中高の校長を兼ねていた『本校』のほうの校長。
それといま思えば、こっちの
中学の校長室で会ったことがあるらしい。
「中高で同じ校長なのに、中学校と高校に校長室があるの?」
「建物が、道路を挟んでいるからかな? 奇数の日と偶数の日でね……」
いや……玲香ちゃんもアンタも。
気まぐれで部屋を変えていた校長のこととか。
いまさらどうでもよくない?
「そこで、『丘の上』はどうだと聞かれて。まぁ、バスに乗れるからいいかなって」
「アンタ、本当にそれだけなの?」
「ま、まぁ……なにか『予感』がしたのかも……」
なにその、取ってつけたみたいな理由は。
それにしても、わたし。
アンタがバスに乗りたいからって。
わざわざこの高校まで……付き合わされたったこと?
「由衣、それは順番が逆よ。海原くんがいくのを聞いて、進路を変えたのよね?」
「そ、そうですけど!」
……って、思わず答えたけれど。
なんで月子ちゃん、そんなことを知ってるの?
「シリーズ一作目。第三章第八話と九話に、書いてあるじゃない」
「あ。『恋するだけでは、終われない』の副題のないヤツだ・ね!」
「あぁこの、月子の回想シーンね」
「ちょ、ちょっと玲香!」
自分で話題にしておきながら。
「ここでわざわざ、スマホで読まないで!」
月子ちゃんが顔を赤くして慌てている。
それにしても、アンタだけ試験なしってズルくない?
「いや高嶺、それはお前の誤解だ」
「えっ?」
「基本は中学の成績で見てくれるから、無試験だ」
「……は?」
「お前が急に『進路変えます! 試験受けさせてください!』って、騒ぐから……」
それで……わざわざテストしたってこと?
「おかげで、僕までついでに受ける羽目になったんだよな……」
なにそれ?
ウチの先生たち、暇なの?
それより、アンタなんでそのときいわなかったの?
「こっちのほうが勉強キツイから、事前にやっておいたら」
あとでわたしも、困らないだろうからって……。
なにそれ……。
アンタって、ただのバカか。
……それとも、めちゃめちゃいいヤツなの?
「まぁおかげで、『みんな』が出会えたということね……」
月子ちゃんのそれは、なんだか別の人物だけにいい換えられそうだけれど。
とりあえずアンタと同じ学校で四年目なのは、まぁ……。
……嫌ではないから……許してあげる。
……校長として、きょうはよろしくと伝えにきたつもりが。
なんだか付属中の話しが、聞こえてしまったわね……。
「彼は……少し不思議な少年……ですな」
以前『本校』の校長と、『丘の上』に進学しそうな生徒について話していたとき。
海原君を評して、あちらの校長はまずそういった。
「あとは……彼を活かしていくのはこの子でしょう」
「あら、女生徒ですか?」
「はい。ですがいわゆる『恋仲』では、ないようですよ」
奇数の日に、中学の校長室にやってくると。
「こう、はしゃいでいて目立つのではなくて。視界に入る感じですな」
このふたりがつい、気になってしまうのだという。
「できればこのまま、こちらの高校に残ってもらいたい気もしますが」
それよりも、『丘の上』の風が似合うかもしれないと。
「『変化』をお求めなのでしょう。寺上先生は」
目を細めてわたしを見た、その人は。
「将来、『もったいない生徒たちを渡してしまった』と後悔しそうですな」
……ただ。それはそれで楽しみだと、ほほえんだ。
いま、この『丘の上』には……よい風が吹いている。
例えば、きょうの入試に関して職員会議で。
「手伝いがたった六名ですか?」
「それで……足りますかね?」
そんな意見が出たとき。
「『放送部』の、六名ですけど?」
「なるほど。それなら、問題ありませんな」
そうほかの先生から声があがったのは、うれしかった。
「ほら、海原! 早く動くよ!」
海原君を活かしてくれる、あの子の声が響いて。
「みんな、い・こ・っ・か!」
この学校を選んでくれた子たちの声が、心地よい。
きょうのわたしの、願いはひとつ。
どうかきょうの入試で、ひとりでも多く。
……彼らに続く、生徒がやってきますように。
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