第二話
「そうだね! そうしなよ! それがいい、当たり前だよ!」
新聞部の子が、
「ほ〜んと、
わたしに意味深な言葉を伝えると。
「寒いけど、『熱い』ねぇ〜」
さらに余分に、もうひとこと付け加えて。
「じゃ、お先っ!」
早足で学校へと戻っていく。
「ねぇ……どうして思い直したの?」
新聞部の子が、あっというまに見えなくなったあと。
わたしは海原君に、聞いてみる。
「いえ、なんだか流れで新部長を呼び出しそうな気がして……」
「……それで?」
「また『取材』になりそうだと……」
「それは……困るよねぇ」
確かに、ネタの宝庫と思われている『放送部』だから。
食いつかれたら大変だ。
「失礼なことをしてしまいましたか?」
「別に平気。あの子『ネタ』以外には、深入りしないから」
そう答えると、わたしは。
学校に戻るまでのわずかな時間を。
『わたし以外の話題』で終わりたくなくなって。
もう一度、ふたりだけの話題を見つけよう。
「ねぇ、海原君……」
とりあえずなにか話そうと思って彼に声をかけた、そのとき。
きょう一番の強い風が。
まるで狙っていたかのように吹きつけた。
「きゃっ!」
ストールとスカートを左右それぞれの手で押さえた、その瞬間。
「イテッ!」
首からわたしのマフラーが、勢いよく舞い上がって。
彼のほっぺたにバシリと当たる。
「海原君……大丈夫?」
「み、見事に飛んできましたね……」
「なんだか『予想外』、だったね」
「確かに、『予想外』でしたね」
そういい合って、互いに軽くほほえんでから。
ふと、あることに気がついた。
「『予想外』、か……」
「えっ?」
「色々と……『予想外』だよねぇ」
「は、はぁ……」
そもそも海原君と出会うなんて、予想外。
おまけに恋に落ちるなんて、予想外。
それから。告白したって、終われなくて。
このままだと『予想外』なことに。
……卒業したって、終われない。
わたしたちがお互い高校生でいられるのは、あとわずか数ヶ月。
だとしたら、まずはそのあいだ。
わたしは……できる限りの笑顔を、残したい。
「あの……どうかしましたか?」
「えっ?」
我に返って、自分でもわかった。
どうしよう、なんだかわたしの顔が……。
すっごく赤くなってしまっている。
「あの、顔が……」
「そうだ! 海原君!」
わたしは、マフラーをサッと外すと。
「寒いだろうから、どうぞっ!」
一気に彼の首に、巻きつける。
きっと『予想外』のわたしの行動に、海原君は。
「あ、あのっ……」
そういって……固まったままで。
目論見どおり、少し赤くなる。
……これできっと、おあいこだ。
おかげで、少し余裕ができて。
「どうかな? あったかい?」
笑顔で、わたしが海原君に聞くと。
彼は小さく、息を吸って気持ちを落ち着かせてから。
いつもみたいに、自分の感想を述べるより先に。
「いやそれよりも、寒くないんですか?」
……そういって、わたしの心配をしてくれた。
「そりゃぁ冬だから寒いよ。でもね!」
……心の中は、とってもあたたかいからいまは平気。
とはいえ、さすがに恥ずかしくて口にはできなくて。
「コンビニまで二往復させたせいで、風邪ひかれた困るでしょ?」
わたしは海原君の体調だって大切なのだと。
もっともらしい理由を、述べておく。
「いや、それなら僕のほうが。都木先輩に風邪ひかれたら困りますよ……」
そうだね、ありがとう。
そうやっていつもいつも、わたしを。
いや。自分以外の誰かを気にかけてくれる海原君が、大好き。
でもね、そろそろ。
……誰かに気にかけられる幸せにも、気づいてくれないかな?
ただ、きっとそれがはっきりとわかるときは。
誰かが彼の隣を『固定』したときだろう。
だったら、まだ。
そのときはこないでくれても……いいのかも知れない。
不思議なことに、校門までの帰り道。
いや、その先の並木道を歩いても。
わたしたちは学校の誰とも、すれ違わなかった。
並木道の終わりが、見えてくる。
楽しすぎる時間は本当に……あっというまだよね。
「ではそろそろマフラー、回収します」
「お、お借りしました……」
海原君の腕にくっつけていた左の手袋も、わたしはそっと離していく。
ゆっくりとそれを、首に巻き直しながら。
このあとなんといえばいいかを考える。
「お散歩してくれて、ありがと」
「いえ、こちらこそ」
「受験前に、元気出た……」
口から出た、そんな言葉とは裏腹に。
また強く吹き出した風の音に、わたしの声は負けている。
……受験まで会えないのは嫌。
どうしよう。
……卒業して会えなくなるのは、もっと嫌。
離れたくない気持ちだけが。
次から次へと、あふれ出てきてしまう。
お願い、海原君。
わたしのために、笑って。
もしここで涙を流したら。
わたしは……前に進めなくなってしまいそうで怖いの。
「また、あとで!」
いきなりいわれて、驚いた。
笑顔でいわれて、驚いた。
「うん! またあとでね!」
やっぱりわたしは、海原君が大好きだ。
そしてやっぱり海原君は。
わたしのことを……。
わたしの恋は、まだまだ続く。
そう、わたしの恋は絶対に。
……卒業したって、終われない。
「絶対! 大学合格するね!」
わたしは、聞かれてもいないのに。
勝手にそう宣言すると。
「だから……」
精一杯の笑顔で。
「またあとでね!」
たったいま、大好きになった言葉を。
……大きな声で、彼に届けた。
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