第四話
……講堂のエントランスで、みんながわたしたちを待っていてくれた。
「うわっ、
「制服姿、か・わ・い・い!」
「……制服ね」
「バレー部じゃないから、制服でしょ」
……ただどうして放送部の人たちって、そんなに『制服』に反応するんだろう?
「珍しいから、じゃないかな?」
さっきまで一番珍しそうな反応だった
「制服って、『いろいろある』からね……」
突然制服に反応しはじめた
よくわからないけれど、この『変な感じ』が。
放送部に入ったという実感を、わたしに与えてくれる。
「
「きょうから正式に、放送部員として……」
「いらっしゃい、千雪!」
なにかいいかけた海原君を押しのけて。
「なによアンタ、文句ある?」
「いや……そろったところで歓迎の言葉を……って」
「いらないから! 省略っ!」
「ええっ……」
残念そうな顔の海原君の横で、
「仕事はじめでもあるのよ……まったく」
なんだか少し、嘆いている。
「じゃぁあの……きょうはメインは
海原君が、気を取り直して話しをはじめると。
「ちょっと待ちなよアンタ!」
由衣が、また話しをとめる。
「忘れて・る・よ!」
ただ今度は、
「はい! 千雪!」
まるで放送部のマスコットみたいな笑顔で。
わたしになにかを渡してくれた。
「……マイク、ですか?」
「インカムよ。ちょっと失礼するわね」
月子ちゃんがそういいながら。
わたしの頭にそれをやさしくのせると。
手早く、そして心地よく調整してくれる。
「ピッタリ……です」
「当たり前でしょう、わたしが調整してあげたのよ」
少しだけ得意げな声で月子ちゃんはそう答えると。
「はい、まずは記念の一枚!」
今度は玲香ちゃんが、スマホを向けてきて。
いきなりわたしだけの写真を撮って。
「うん、いい感じ」
満足げにうなずくと。
「次、集合写真!」
「はい……撮りますよ〜」
海原君がスマホを受け取ると、みんなが一気に近づいてきて。
「千雪、笑って!」
美也ちゃんに導かれるままにわたしは。
……みんなの輪の中に、入ってしまった。
「あの……」
「どうしたの、千雪?」
「こんなにすぐに……馴染んでいいんですか?」
なにか問題でもあるのかと。
逆にわたしが、聞かれてしまって。
……思わずわたしの右目から……一滴だけ涙が出た。
「海原! アンタ泣かさないでよ!」
「ええっ……なんで僕なんだ……」
「
「えっ、玲香ちゃん?」
「だったら美也ちゃんをサブに指名します」
「ちょ、ちょっと月子?」
「じゃ、わたしが千雪の面倒見る・ね・っ!」
よくわからないけれど、役割分担が変わったらしい。
「ああ見えてね、玲香と月子って意外と涙もろいとこあるんだ・よ」
「えっ?」
「千雪。『最高に面倒な世界』、よ・う・こ・そ」
姫妃ちゃんの笑顔が、下を向いていたわたしの目の前に現れると。
「はいみ・ん・な、準備開始っ!」
その号令をきっかけに、全員が一斉に動き出す。
……これが、放送部のチームワークなんだ。
「え〜、海原君がメインなの?」
「で、美也がサブ?」
いままでは、ホールで聞いていただけの
きょうはわたしのインカムに直接響いてくる。
「先生たち、まずは『ちゃんと』あいさつをお願いします」
美也ちゃんが、そう伝えると。
「そうだった。千雪、よろしく!」
「千雪、これから仲良くね! あとちょっと待ってて」
これが『ちゃんと』なのかはさておいて。
「ほら、つぼみちゃん」
「急いで、待ってるから」
「……市野さん、放送部も楽しみなさいね」
えっ?
「寺上校長は、放送部の元顧問よ」
「そうなんですか?」
「あと佳織先生と響子先生は、問題だらけの元・教え子たちだそうよ」
「ちょっと月子、聞こえてるよ〜」
「問題児だったのは事実でしょ。いいから始業式の準備しなさい」
「は〜い、了解」
「つぼみちゃん、了解」
みんな色々な場所に散っていて、インカムだけが頼りのはずなのに。
なぜだろう……。
みんなの顔や表情が、『見えてきそう』になる。
……そうか。きっとこれこそが、放送部のチームワークだったんだ。
「千雪も、すぐに慣れるわよ」
「そうそう、夢にまで出てきたら本物」
「月子と玲香って、なんかブラックだよね海原君?」
「あの都木先輩……僕は、ノーコメントです」
なんだか、大変なところにきてしまった。
でも、うれしい。とってもうれしい。
そう思って、ただどう表現すればいいかわからなくて。
思わず拳を握りしめたわたしに。
「放送部へ、よ・う・こ・そ」
姫妃ちゃんが、そっと両手でそれを包みこんでくれると。
「さっきいったとおりだよ」
「えっ?」
「『最高』だけど、『最高に面倒な世界』だから。素直な気持ちで・ね」
わたしに、最高の笑顔を向けてくれる。
「よろしく……お願いします」
精一杯の感謝の気持ちで答えると。
「うん、じゃぁ『あれ』は千雪がどうにかして」
「えっ?」
姫妃ちゃんが、わたしを置いて走り出す。
その逆方向から、バタバタと足音がすると。
「千雪〜っ!」
由衣がそういいながらわたしに突進してきて。
「うぐっ……」
思わずそんな声が出るくらい、力一杯抱きしめてきた。
「暑苦しいのよね……」
「千雪、息が止まる前に離れてね」
月子ちゃんと玲香ちゃんの冷めた声が聞こえて。
「どうする、海原君?」
「同級生部員ができたから興奮してるんですよ、放っておきましょう」
美也ちゃんたちがお手上げだと話していていて。
そのとき、なんだかわたしは。
……みんなの顔や表情が……『見えた』気がした。
「ま、そういうことかな」
「え?」
由衣が一気に力を抜くと。
めちゃくちゃうれしそうな顔で、わたしを見る。
「よし千雪、よく見といてね・っ!」
いつのまにか戻っていた姫妃ちゃんが、ニコリとして。
「すぐ戻りまーす!」
由衣が一気に駆けていく。
「はじめます」
海原君の声が、すべてを見ていたようなタイミングで聞こえてくると。
姫妃ちゃんの顔が一瞬で真面目になって。
予定時刻ぴったりに。
始業式が、はじまった。
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