第八話
……正月三が日の明けた翌日、朝十時。
神社の鳥居前に、小振袖姿の女子高生四人がそろうと。
わずかながらもお参りに訪れた人々がみな、目を奪われている。
「こら。『わずか』は余分」
頑張って大振袖で着飾って、見栄を張っている
僕のコートのフードを引っ張ると。
「『見栄を張る』も余分だから」
もうひとり、
僕の首がどんどん絞められていく。
「み、未婚ですから……おふたりとも、まだお似合いです」
「ちょっとっ!」
「『それ』が一番、余分だからっ!」
ふたりが僕に、とどめを刺そうとして。
慌ててコートを脱いで僕は逃げ出した。
「あの三人……なにしてるの?」
「いい年して、鬼ごっこしてますよ」
「よくあの格好で走る・よ・ね・ー」
「やっぱり今年も、平穏にはいかなさそうよね……」
無事に神社での『お勤め』を終え。
なかばあきれながら、のんびりと僕たちの姿を眺めている。
そういえば、女性陣の衣装は。
すべて高尾先生のお母さんが用意してくれたものだ。
「……せっかくですから、みなさんでいかがですか?」
昨日の午後、そのあたりはさすが神社というべきか。
「色々と、在庫がありましてねぇ……」
華やかなものから上品な絵柄まで。
社務所の中に、たくさんの着物が並べられると。
「かわいいっ!」
「わたし、これが絶対似・合・う!」
高嶺と波野先輩が、手にとってまず大喜びする。
ふたりを横目に、玲香ちゃんは。
「
黄緑系の生地に、桜の花が描かれたふたつを手に僕に聞く。
「……着るんだね」
「それは当たり前」
そう答えたあと、玲香ちゃんは僕をチラリと見ると。
「月子だって……『月下美人』の前でとまってるよ」
そう伝えてから、僕に向かって。
「それで、どっちが似合うか教えてくれない?」
ニコリと笑って、再度聞いてくる。
「ありがと、じゃぁそっちにする」
玲香ちゃんなら、こっちかと。
何度か合わせてくれたあとに、僕が告げると。
「
「えっ……」
ニコニコと、一面の梅の柄が
先生のお母さんがすりすりと近づいてくる。
「いえ……さすがにそれは……」
「あら、もったいないことですね」
高嶺に気づかれる前に、辞退できてよかったと思っていたら。
「もう少し『男らしい』のがよければ、ワシのを貸してやるぞ」
いつのまにかきていた宮司、要するに先生のお父さんがいうけれど。
あの……それを僕に、初詣に着ろとおっしゃるので?
「あら、おしゃれですわねぇ〜」
「じゃろう、極上品じゃ」
盛り上がるふたりを、複雑な顔で眺めるしかない。
やはり高尾家の会話は。
今年もまったくもって、理解できそうにない。
……そもそも『白装束』に、おしゃれとかあるんですか?
とまぁ、そんなこんなで『豪華』な女子がそろった今朝に戻ると……。
「はい、アンタちゃんと撮んなよ!」
高嶺のものが真っ先にきて、それから次々に。
各人のスマホが僕にやってくる。
あぁ、いつもの撮影会がはじまった……。
「え! もしかして海原君。デジカメ持ってき・た・の?」
ようやく撮影会が終わったと思ったら。
波野先輩が目ざとく、僕の所持品を発見する。
「あ……それは……」
「昴君にしては、珍しいね」
玲香ちゃんはそういうと。
「せっかくだから、撮ってくれる?」
ニコリと、僕に命令する。
「それなら……しかたないわね」
三藤先輩が、珍しく撮影許可を出すと。
「じゃぁ『ゴマちゃん』が中央ね!」
高尾先生が、自らが命名した自慢の『
ま、まぁ。これで断ったら怒られるだろうし。
……それに『本命』を撮るには……まだ容量は足りている。
「じゃぁ、何枚かいきますよ」
そういって僕は、再度カメラマン役をうけたまわると。
みんなでようやく、参道を歩きはじめる。
途中の小さなお
それから、本殿へ。
「よし。売上に貢献するよっ!」
藤峰先生が、妙にリアルなことをいいながら。
高嶺と一緒になって、ジャラジャラとおみくじの箱を振り出して。
「大吉が出るまで、ずっとやり続けそうよね……」
思わず三藤先輩がつぶやくと。
「あの子高校のとき、うちのみくじ棒全部出し切ったのよ」
「えっ……」
高尾先生が、ついポロリと。
藤峰先生の恥ずかしい過去を口にする。
「お父さんがね、一本だけ『大大吉』があるって冗談いったのよ」
まさか、本気にして全部抜いてしまうとは思わず。
「そのあと、おみくじ
「恐ろしい、状況ですね……」
「『夏休み』の自由研究の題材にして、賞を取ってしまったわ」
「年始のネタを、わざわざ夏休みにまとめたのね……」
「三藤先輩、それより高校なのに自由研究の宿題があるほうが……」
「きっとそのときの写真とか、あった気がするけれど?」
「いえ高尾先生……まさに目の前で見ているところです」
『大凶』をひいた高嶺に、『大吉』だと勝利宣言している藤峰先生のその顔は。
きっと……何十年前のそれと同じなのだろう。
「ちょっと! そんなに年齢離れてないんだけど!」
この距離で、聞こえていたのか。
藤峰先生が僕に向かって、年齢について触れるなと威嚇してくる。
続いて、今度は。
「あれ?」
突然不思議そうな声をあげて。
その視線の先を追った僕は、思わず……。
……海原君が、いきなり。
「
わたしの名前を呼ぶもんだから。
「えっ、知ってたの!」
大声で、叫んでしまった。
「そりゃぁ……知ってますけど?」
「だっていままで作中でずっと、『女子バレーボール部の部長』扱いだったのに?」
「あ……あの、それは……」
海原君が、隣で腕組みしている。
不機嫌そうな
「あぁ〜。要するに、ほかの女子の名前を呼ばせたくないないのがいるんだぁ〜」
「ちょっと、若葉!」
「おっ、わたしの名前をいきなり呼び捨てかぁ〜」
「あぁ……もう! この作品、どうしてこう女子高生ばかりが増えるのよ……」
そんなの、作者の都合だろうに。
以前と違って、ある意味で正直というか。
色々と『声に出す』ようになった月子が。
「海原くん! 若葉はそのまま『バレー部長』呼びでよかったとか、思わないの?」
遠慮なく話すことのできる唯一の『男子』に向かって、必死に抗議している。
月子の慌てぶりが面白くなったわたしは。
「ねぇ海原君!」
その男子にこっちを向いてと呼びかけると。
「隣にいるわたしの『連れ』だけど、もちろん知ってるよね?」
さっきから、必死にわたしの影に隠れようとしている。
わたしの大切な後輩のフルネームを呼んでくれと。
「いってみてよ、お願い!」
頼むから外してくれるなと、少しだけドキドキしながら。
海原君に、問いかけた。
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