俺の応援(バフ)、どうやら「監督(の視点)」らしい ~エラーだらけの俺、異世界で美少女球団(パーティ)を率いて逆転勝利(ゲームセット)~
第40話:『逆転勝利(ゲームセット)』と『最高の球団(チーム)』
第40話:『逆転勝利(ゲームセット)』と『最高の球団(チーム)』
ズドォォォォォン!!
鈍く、重い衝撃音が、王都の空気を震わせた。
時間が止まったかのような静寂の中、ガルムが振り下ろした斧の柄――その『石突き』が、ライオネルの黄金の兜を深々と打ち抜いていた。
刃ではない。ただの鉄の塊による打撃。
だが、それ故に、衝撃は鎧の防御を貫通し、王者の脳幹を直接揺さぶった。
「ガ、ぁ……」
ライオネルの瞳から、光が消える。
絶対王者として君臨していた黄金の巨体が、糸の切れた人形のようにゆっくりと崩れ落ちた。
ドサッ。
大の字に倒れ、ピクリとも動かない。
俺の『監督の視点(マネージャー・アイ)』に表示されていた【勝率】の数値が、ドラムロールのように高速回転し――
【勝率:100%(WIN)】
その文字で、固定された。
「…………」
一瞬の静寂。
誰もが、目の前の光景を信じられなかった。
あのSランク王者が。無傷だった怪物が。
ボロボロのEランク(ピジョンズ)に、沈められたのだ。
「勝者……ピジョンズ!!」
審判が、裏返った声でコールした瞬間。
「う、うおおおおおおおおおおおおっ!!」
王立闘技場が、歓声で崩壊しそうなほど揺れた。
「信じられねえ! ジャイアントキリングだ!」
「ピジョンズ! ピジョンズ!」
観客席では、バルガスが、ゴードンが、そしてパティが、涙を流して拳を突き上げている。
リゼッタが泣きながらガルムに抱きつき、ルナリアがへたり込み、ミーナが折れた腕を庇いながら、それでも誇らしげに笑っていた。
「……なぜだ」
倒れていたライオネルが、うつろな目で空を見上げ、微かに呟いた。
「全て……完璧だったはずだ。私の計算に、間違いはなかった……。何が、足りなかった……?」
俺は、ボロボロのメンバーに肩を貸しながら、王者の見下ろす位置まで歩み寄った。
「アンタは完璧すぎたんだ」
俺は静かに答えた。
「だから『失敗(エラー)』を知らなかった」
「エラー……?」
「転んだことがない奴は、立ち上がり方を知らない。計算外の泥沼でもがき方を知らない」
俺は、傷だらけの仲間たちを見渡した。
「俺たちは、泥の味を知っている。失敗して、修正して、何度も立ち上がってきた。……その分だけ、アンタより少しだけ『野球(勝負)』を知ってたんだよ」
ライオネルは、呆然と俺たちを見た後、ふっと自嘲気味に笑った。
「……そうか。それが……『人間』の強さか」
彼は静かに目を閉じた。
表彰式。
貴賓席から降りてきた国王自らの手で、優勝トロフィーと『Sランク昇格証』が授与された。
「ぐすっ……重いですぅ……」
リゼッタは、自分の体ほどもあるトロフィーを抱いて号泣している。
「私たち、本当に……一番になったんですね……!」
「へっ、いい金塊(カネ)になりそうだぜ」
ガルムは強がっているが、その目尻は真っ赤だ。
「ウチの腕一本分の価値はあるやろ」
ミーナが、治療を受けた左腕を吊りながら、満足げに笑う。
ルナリアは、観客席で手を振るパティたちに、何度も頭を下げていた。
「慎吾殿」
エルミナが、感無量といった表情で俺に『Sランク昇格証』を手渡した。
「おめでとうございます。これで名実ともに、あなたたちは『メジャー(Sランク)』ですね」
俺は、その重厚な証書を受け取った。
Sランク。冒険者の頂点。富と名声の証。
だが、俺はそれを軽く掲げただけで、すぐに懐にしまった。
「ランクなんて飾りだ」
俺は、最高の笑顔でメンバーたちを振り返った。
「俺たちは、どこに行っても泥臭い『ピジョンズ』だよ」
数日後。
王都での優勝パレードや祝賀会の狂騒を抜け出し、俺たちはホームタウンのギルドに戻ってきていた。
「おかえりー! 優勝おめでとう!」
「見たぞ! 俺たちの誇りだ!」
ギルドの扉を開けると、いつもの顔ぶれが、いつも以上の温かさで迎えてくれた。
変わらない、騒がしくも心地よい日常。
だが、依頼掲示板を見るメンバーたちの背中には、以前とは違う、確かな自信と風格が漂っていた。
「さて、次はどうしますか? 監督」
リゼッタが、新しいブーツの紐を結び直しながら尋ねる。
「Sランクの依頼、たくさん来てますよ」
その時。
バンッ! と勢いよく扉が開いた。
「し、慎吾監督ーっ!! 大ニュース! 特ダネですぅ!」
パティが、丸めた新聞を握りしめて駆け込んできた。
「た、大変です! 海の向こうの大陸で、古代の『超Sランクダンジョン』への入り口が発見されました!」
「超Sランク……?」
ギルド中がざわめく。
それは、未知の領域。誰も踏破したことのない、新たなフロンティア。
「へっ、面白そうじゃねえか」
ガルムが、修理を終えた愛斧を肩に担いでニヤリと笑う。
「またウチらをこき使う気か?」
ミーナが呆れたように言うが、その手はすでに新しいミットの感触を確かめている。
「行きましょう、慎吾さん!」
ルナリアが、期待に満ちた目で俺を見る。
俺は帽子のつばを直し、一度深呼吸をした。
全国制覇はゴールじゃない。
俺たちの『シーズン』は、まだ始まったばかりだ。
俺は、頼もしい『選手』たちに向かって、ニヤリと笑って号令を出した。
「よし、キャンプインだ」
俺は出口を指差した。
「準備はいいか、お前ら!」
「「「おう!!」」」
青空の下。
新たな『冒険(シーズン)』へと歩き出す5人の背中を、眩しい陽光が照らしていた。
(完)
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