第7話:新人(ルーキー)獲得と、二つの「エラー」

ギルドのカウンター。「監督(マネージャー)」として正式に登録された慎吾は、リゼッタを伴い、昨日エルミナに教えられた「新人(ルーキー)の公開トライアウト(入団テスト)」会場にいた。

会場は、闘技場(スタジアム)のサブグラウンドだ。

多くの「プロ志望」の若者たちが、ギルドの審査員(スカウト)の前で技能を披露している。

「すごい熱気ですね、監督!」

「ああ。だが……」

慎吾は、集まった「選手」たちを見て、内心(絶句)していた。

「(……レベル低すぎだろ。俺、とんでもないところに来てしまったんじゃないか……)」

『監督の視点(マネージャーズ・アイ)』で見ると、一目瞭然だった。

> 【候補A(魔法使い)】

> * エラー: 詠唱(フォーム)がバラバラ。制球(コントロール)が定まらない。

> * (評価:ノーコンすぎて試合にならない。四球連発で自滅するタイプだな)

>

> 【候補B(盾役)】

> * エラー: 敵の攻撃(ボール)を怖がり、腰が引けている。

> * (評価:キャッチャーがビビってどうする。後逸しまくりじゃないか)

>

「(アカン。これじゃドラフト(指名)どころか育成枠も無理だぞ……)」

慎吾は、(エルミナに「盾役(キャッチャー)が必須」と言われていたな……)と一瞬思い出すが、目の前の候補者たちのあまりのレベルの低さに、すぐに頭を振った。

「(ダメだ、こんな守備じゃ話にならん! 他を探すぞ!)」

慎吾が「盾役」の候補リストを(無意識に)捨てた、その時だった。

「次! ルナリア!」

審査員の呼び出しに、一人の長身の少女がおずおずと前に出た。

肌は病的に白く、顔の半分を覆う大きなメガネをかけた、気弱そうな(陰キャ)少女だ。

「(……なんだ? あの子、肌が真っ白だぞ)」

慎吾が内心で訝(いぶか)しんでいると、隣のリゼッタが小声でささやいた。

「……監督。あの人、たぶん『月光族』です。夜しか活動できない代わりに、魔力の制御(コントロール)が凄いって聞きました。珍しいです……」

「よし! あの的(まと)に魔法を当ててみろ!」

ルナリアは小さな声で詠唱し、小さな「ウィンドカッター(風の刃)」を放つ。

シュッ。

魔法は、審査員が指定した的の、直径1センチの円のど真ん中を、寸分違わず貫いた。

「(……なんだ!?)」

審査員(スカウト)がどよめく。「もう一度だ」「次は右端を狙え」。

シュッ。シュッ。

彼女は指示通り、10回連続で完璧な位置(コース)に魔法を当て続けた。

「(なんだこれ……! 精密機械どころの騒ぎじゃないぞ! あのコースに10球連続とか、往年(おうねん)の技巧派(ぎこうは)サウスポーでも無理だろ! 神(かみ)コントロールじゃないか!)」

審査員も興奮気味に叫ぶ。

「よし! 合格だ! 次、あの岩を破壊しろ!」

「ひっ……!」

ルナリアの体がビクッと震える。

彼女が(震えながら)全力で放った魔法(ファイアボール?)は、岩に当たった。

「ポンッ」

……という、気の抜けた音と共に消え、岩にはススがついただけだった。

「(…………えぇ……?)」

慎吾は(絶句)した。

「(球威(きゅうい)が皆無!? ストレートが80キロしか出てないぞ! スローカーブかな?)」

観客からヤジが飛んだ瞬間、彼女はパニックになり、次の魔法は地面に暴投(エラー)してしまった。

「(……なるほどな。これは豆腐メンタルだ)」

「……不合格だ」

(待て……! あの『制球力(コントロール)』は本物だ。球威(パワー)は……後でなんとかなる! まずは「投手(ピッチャー)」を確保だ!)

慎吾が次の候補を探そうとした時、地響きのような音がした。

「次! ガルム!」

小柄な、しかし筋肉の塊のようなドワーフの少女が、自分より巨大な戦斧(バトルアックス)を引きずって出てきた。

「パワーテストだ! あの岩を叩け!」

ガルムは、戦斧(アックス)を軽々と振りかぶり、岩に叩きつけた。

ゴォォン!

轟音と共に、岩は粉々になり、破片が闘技場(スタジアム)の壁まで吹き飛んだ。

「(うっそだろ……!)」

「(桁外れのパワー……! まさに場外ホームランだ! あれは助っ人外国人(4番・一塁)じゃないか!)」

審査員も大興奮だ。

「合格だ! 次、動くカカシ(ダミー)を攻撃しろ!」

ガルムは自信満々に戦斧(アックス)を振り回す。

——ブンッ!(空振り)

——ブンッ!(空振り)

——ブンッ!(空振り)

「(……ブンブン丸にも程があるぞ)」

結局、一度も当たらず、カカシ(ダミー)に軽く小突かれて転んでしまった。

(……大型扇風機だ。三振王じゃないか……)

「……不合格だ! 次!」

審査員が、冷たく言い放つ。「(まあ、そうなるな)」

(……待てよ)

慎吾の『監督の視点(マネージャーズ・アイ)』が、二人の「エラー」を明確に映し出していた。

> 【ルナリア(月光族)】

> * 適性: 投手(リリーフ)

> * エラー: 球威ゼロ。プレッシャー(日光)に弱い(豆腐メンタル)。

>

> 【ガルム(ドワーフ)】

> * 適性: 4番打者(クリーンナップ)

> * エラー: フォームがめちゃくちゃ。当たらなければ意味がない。

>

「(……エラーだらけだ)」

慎吾は、隣に立つリゼッタを見た。

「(リゼッタもそうだった。エラーは俺が修正(なお)してやる!)」

(そうだ、エルミナは『盾役(キャッチャー)』が必要だと言っていたが……)

慎吾は、ルナリアの「神コントロール」と、ガルムの「場外ホームラン」を思い返す。

(……あんな才能(ロマン)、放っておけるか! 守備(ディフェンス)は後だ! まずは攻撃力だ!)

「監督?」

「リゼッタさん、俺は決めたぞ」

慎吾は、不合格となり、うつむいて立ち去ろうとする二人の前に立ちふさがった。

「……なに」

「……なんですか」

気弱な月光族と、不機嫌なドワーフが、同時に慎吾を睨む。

「あんたらの『エラー』、俺が修正(なお)してやる」

慎吾は、ニヤリと笑った。

「俺たちのチームに、入らないか?」

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