第18話
土曜日の午後。
智衣はテラスに出て、海を眺めながらタバコを吸っていた。
海は、おだやかだった。
智衣は歩いていた坂登を見つけ、手を振った。
智衣に気がついた坂登も、同じように手を振った。
坂登が玄関を開けると、智衣もテラスから室内に戻った。
「此処に来るまで、迷わなかったか?」
初めてアトリエに来た坂登に、智衣は聞いた。
「迷いようが、ないじゃないか」
坂登は、笑いながら言った。
「何もないな」
坂登はアトリエを見回しながら言った。
「絵を描くだけの、場所だからな」
言いながら智衣はフローリングの床に座り、坂登も座った。
「早速だけど、見てくれ」
智衣はノートを、坂登に渡した。
ノートを受け取った坂登は、無言のままノートを開いた。
ノートに書いてあった字を目で追っていた坂登は、深い息をはいた。
ノートには、千秋と男の行動が細かく書いてあった。
「凄いな。よく調べたな」
「まぁな」
「写真撮影をする式場、ここから近いな」
「偶然だけど、近くて良かった」
「どうやって、撮影日を、知ったんだ?」
「式場係の女に金を出して、教えてもらった。その女には、その日休みをとってもらった」
「金絡みとは言え、その女よく智衣に教えたな」
「その女ギャンブル好きで、借金はないけど金を欲しがっていた」
「金か。そのおかげで、やれるな」
「今回は、俺が……」
「駄目だ。お前は、何もするな」
「でも、俺の標的だ」
「その足で、何ができる。お前が、いろいろ調べてくれたからできるんだ。俺がやる。元々の元凶は俺だ。全ては、俺から始まった」
「俺の足が、こんなんじゃなかったら。なぁ、はじめちゃん」
「なんだ?」
「俺に何かあったら、あずさを頼む」
「何を言ってやがる」
「頼むよ。あずさを、巻き込みたくないんだ」
「わかった。じゃあ、俺に何かあったら、あずさを守るんだぞ」
「もちろん。今夜は、時間があるんだろ。とことん呑もう」
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