第17話

 平日に男は仕事を休み、千秋と一緒に海がよく見える結婚式場に出かけた。

 さびれた駅を降り、千秋と男は路線バスに乗った。

「よく、バイトを休めたね」

「その代わり、日曜日に出ることになっちゃった」

「じゃあ今日は、楽しもう」

 路線バスを降り、しばらく歩くと目指していた式場が見えてきた。

 平日の式場は、閑散としていた。

 受付を済ませ、ロビーのソファーに案内された。

 テーブルを挟み、式場係の女性と打ち合わせを始めた。

「土日は式が入っているので平日しか日にちが取れませんが、大丈夫でしょうか」

「大丈夫です」

 男は、即答をした。

「では、撮影の日にちはいつがよろしいでしょうか」

 女性はスケジュール帳を広げて、聞いてきた。

 撮影日が決まり、貸衣裳室に案内された。

 最初に、千秋が着るドレスを選ぶ。

 定番の白いドレスが並ぶ中を、千秋が選んでいると男が言った。

「そのドレスも良いけど、色がついたドレスの方が良いんじゃないか?」

 男のアドバイスで、女は色がついたドレスを観に行った。

「うわぁ、どれにしよう。迷っちゃう」

 千秋は、ドレスをいろいろ観ていた。

 男も千秋と一緒にドレスを選び、あるドレスに手を伸ばした。

「このドレス、良いじゃないか」

 男はドレスを手にして、千秋の身体にドレスをあてた。

 そのドレスは、黒に赤の刺繍が入ったドレスだった。

「うわぁ、大人っぽい。私、着こなせるかなぁ」

「似合うよ。俺は、気に入った」

「おじさんが言うなら」

 千秋が着るドレスが決まり、男の衣装決めとなった。

 男の衣装は、黒のありふれたタキシードだった。

 衣装が決まると、千秋がつける装飾品を選んだ。

 全てが終わった頃には、もう昼を過ぎていた。

 店も何もない所なので、千秋と男は戻ってから駅ビルの中の食堂街にある店に入った。

「疲れただろ」

「疲れたけど、楽しかった」

「次は、いよいよ撮影だな」

「海が見えるバルコニーで、写真を撮るのよね。楽しみだわ」

「一生の思い出になるな」

 千秋と男は、微笑みあった。

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