第16話

 清掃業の仕事を終えた千秋は、アパートに向かって歩いていた。

 繁華街は、暗くなりつつあった。

 しばらく歩いていると、見覚えのある背中が目の前にあった。

「おじさん!」

 千秋が声をあげると、男は振り返り、嬉しそうに微笑んだ。

 千秋は、小走りに男の側に駆け寄った。

 男の腕に自分の腕を絡ませ、男と歩いた。

「仕事の帰り?」

 歩きながら、千秋は男に聞いた。

「ああ。珍しく、早く仕事が終わった」

「お互い、仕事帰りに会うなんて、初めてね」

「そうだな」

 そう言った男は、足を止めた。

 そこは、写真館だった。

 ガラスケースには、誕生祝いや七五三の写真が飾られていた。


 アパートに着くと、男は千秋に言った。

「ドレスを着た、写真だけでも撮ろうか」

「私が、ドレス?」

「きっと、記念になるよ。どうせなら、式場で撮りたいなぁ。写真だけ撮らせてくれる式場ってあるかな?」

 千秋は、携帯で調べた。

「写真だけでも良いって式場、たくさんあるわ」

 男は千秋に寄り添い、携帯を眺めた。

「あっ、ここなんて良いじゃないか。海をバックに写真撮影が出来る」

「でも、ちょっと遠いわ」

「なぁに、旅行気分を味わえば良いんだよ」

 千秋は、男の胸の中に顔を埋めた。

「おじさんには亡くなった奥さんと娘さんがいるけど、私を離さないで」

「離すものか。私にはもう、千秋しかいないんだよ」


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