第7話
それから一週間後、女は繁華街にある量販店の二階の清掃の仕事を始めた。
職場の年齢層は、三十代から六十代の主婦で占められていた。
二十五歳の女は、一番若かった。
仕事は主に床拭き、窓拭き、トイレ掃除で、力仕事はなかった。
時間は、午前七時から十二時までと午後十二時から五時までの交代制だった。
女は午前の勤務を希望したが、午後の勤務時間帯の募集だった為、午後からの勤務だった。
仕事を始めて、三日が経った。
今日から、独りで掃除をすることになった。
休憩室で作業用の服に着替えた女は、モップを持ち床拭きを始めた。
平日の昼過ぎのせいか、店内にはあまり客が入っていなかった。
床拭きをしていると、見覚えのある男に目がとまった。
モップで床を拭きながら、女は男を見つめる。
女が掃除のバイトを選んだ理由は、自分でも出来そうな仕事だと言うことと、バイト先の量販店に男が行くことを知っていたからだった。
まさか、こんなに早くお目にかかれるとは。
モップを手に、女は男に近づいた。
「こんにちは」
見知らぬ女に声をかけられ、男は怪訝な顔を女に向けた。
女はひるまず、男に言った。
「こんにちは、広瀬智衣さん」
突然自分の名前を言われ驚いた智衣だが、顔には出さずに言った。
「あんた、誰だよ?」
「アタシ?アタシは千秋。あずさの友人」
突然あずさの名前が出て、さすがに智衣は驚きを隠しきれなかった。
「あずさの?」
「そう。森村あずさの友人。正確には、友人だったかな」
「友人だった」と聞いた智衣は、何かが引っかかり黙り込んだ。
そしてやっと、思い出して言った。
「友達と暮らしていたけど、嫌になって逃げ出したって、あずさが言っていた。その友達ってあんたか?」
「知っているんだ。そうよ、あずさと一緒に暮らしていたのは、私よ」
「ふ〜ん。で、なんの用?」
「用なんて、別にないわ。あずさの男に興味があっただけ」
「物好きだな。言っとくけど、あずさとはなんでもないよ。ただの同居人だ」
「同棲をしているんじゃないの?」
「どうでもいいだろ!」
智衣は声を荒らげ、足早に歩き出した。
何故今頃、あずさと一緒に暮らしていた友人が出てくるんだ。
なんで、俺のことを知っているんだ?
歩き出した智衣の胸には、不安が広がっていた。
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