第4話
テーブルを挟んで目の前の料理を食べている男に、不安げな表情をして女は聞いた。
「……美味しい?」
「美味しいよ」
男は、やさしく微笑んで言った。
一ヶ月前、女が男に売春を持ちかけてきたのをきかっけにふたりは知り合い、つきあうようになった。
男とつきあいだして、女は少しずつ変わっていった。
それまで仕事もせず自分の身の回りのことが何もできないだらしない女だったが、これまでの生活態度を改め料理を少しずつ覚え自分磨きに努力をした。
女の変わりように男は喜んだ。
それぞれ暮らしていた場所を引き払い、一緒に暮らすようになった。
朝食が終わり、女は朝食の後片付けを始めた。
ふたりだけの食事の後片付けは、すぐに終わった。
女は洗面台の前に立ち、ネクタイを締めている男の背中をみつめた。
ネクタイをしめた男は女の方を向いた。
「どう?」
男のネクタイ姿に、女は満足そうに頷いた。
五十六と言う年齢の通り髪の毛はほぼ真っ白だった。
しかし、長身で無駄な贅肉が一つもなくスレンダーな体型を維持していた。
「休みの日に、髪の毛を染めに行こうかな」
「あら、そのままでも素敵よ」
「でもなぁ……」
女の年齢は二十五歳。三十一と言う年の差を、男は気にしていた。
「アタシだって、髪の毛白いよ。お似合いじゃない」
若白髪が目立つ女は、無邪気に笑った。
女の笑顔につられて、男も笑った。
「よし!休みの日に、ふたり揃って、イメチェンするか!」
「イメチェン?」
「美容院、予約入れといてくれ」
男の言葉に女はぽかんとしていたが、やがてにっこりとうなづいた。
男は女にそっとキスをすると「行ってきます」と言い、仕事に出かけた。
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