第3話

 テーブルの上に置いてあった携帯の着信音で、あずさは目を覚ました。 

 携帯の通話ボタンを押すとそこには、同居人の智衣の名前があった。

 電話は、智衣が今夜帰ってくると言う内容だった。

 あずさは出かける支度をして、買い物に出かけた。


 スーパーで買い物を終えたあずさは、魚を焼いた。

 焼いている間に、食材の仕分けや夕飯を作る準備をした。

 焼き上がった魚をグリルから出し、魚の骨を抜いてシロが使うお皿に魚の身をほぐし、夕飯を作り出した。

 夕飯を作り終えたあずさは、炊飯器からご飯をシロのおさらによそった。

 風呂場に行き、浴槽にお湯を溜め、お湯を溜めている間にクッションの上で眠っているシロの前に、シロのお皿を置いた。

 クッションの上で眠っていたシロは、エサに気が付き起き出した。

 伸びをした後、シロはエサを食べだした。

 お湯が程よく溜まり、あずさは蛇口をとめた。

 浴室から出てきたあずさは、シロの側に座り夢中でエサを食べるシロを眺めた。

 エサを食べ終えたシロは伸びをして、何かに気が付いたように短く鳴いた。

「シロ、どうしたの?」

 あずさがシロに問いかけると、シロはじっと玄関のドアをみつめていた。

 やがて玄関のドアがあき、智衣が入ってきた。

「ただいま」

 部屋に入ってきた智衣は、シロを抱き上げた。

「お帰りなさい」

「おっ、シロはもう食ったか」

 智衣は空になっていたシロのお皿に気が付いた。

 抱いていたシロを、クッションの上に置いた。

「すぐ、お風呂に入れるわ」

「ありがとう。風呂に入ってくる」

 智衣は浴室に行き、あずさは台所に向かった。


 智衣が浴室から出てくると、テーブルの上にはあずさが作った料理が並んでいた。

 あずさが作った料理は、和食を中心とした料理だった。

「いただきます」と言った智衣は、目の前の煮物に箸をつけた。

「こう言うのが、食いたかったんだよ」

「そう?」

「アトリエにこもっていると、ちゃんとしたものが食えなくて」

「台所とかないの?」

「あるけど、絵に集中をしたいから食事とか身の回りのこととか、どうでもよくなる。絵を仕上げるのに没頭し過ぎて、気がついたら床の上で寝てたなんてことはしょっちゅう」

「それじゃあ、身体が心配だわ」

「そうでもしなきゃ、完成しないし期限に間に合わない」

 智衣は、切り干し大根を食べた。

「懐かしい味だ。ん、これは?」

「かぼちゃをつぶして、マヨネーズと和えたの。煮物ばかりじゃ、飽きるでしょ」

「かぼちゃかぁ。いい箸休めだよ」

「アトリエって、どんな場所にあるの?」

「目の前が海だよ。何もない所だよ」

「目の前が海って、なんだか素敵じゃない」

「たまに行くぶんには良いけど、暮らしていく場所ではないな」

「そうなの。でも、行ってみたいな」

「そうか?」

「うん」

「機会が、あったらな」


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