第十三話 神社の、鈴
「ひぃぃぃぃぃぃぃ」
遠くで誰かが叫んでいた。いや俺か。
おばさんを押しのける。
とにかくタオルで水分を取り。置いてある服を着る。
そして外に飛び出した。
冬の夜だ。
限定的な温もりなどとうに消え去る。
俺はガタガタと震えた。
おばさんの用意した服は部屋着だ。防寒性はほぼない。
いや。寒さじゃない。何に、何に震えているんだ……俺は。
どこをどう走ったものか――
夜が、開ける。
今が何時で。
俺は何で。
ここはどこなんだ。
■
広いところに出た。
ここは神社。境内だ。
とぼとぼと、目的無く歩いた。
どこからか、ひそやかな声が、聞こえる。
『おや。面白い存在も、いたもんだ』
は
何だ……?
いったい、どこから声がしたものか。
周囲には誰もいない。
俺は鳥居を抜け、参道を通り、いつの間にか拝殿の方まで来ていたようだった。
拝殿の方から、その声は聞こえた。
わかる。わかるぞ。お前は。
「お前、もしかして、ツクモノマエか……?」
賽銭箱の真上。大きな、鈴。
『失礼な。私はれっきとした付喪神だよ』
その鈴から、声がしていた。
『この神社建立の時から全てみていた。お前は惑っているね。わかる。わかるよ。痛いほどに、伝わってくる』
空気が波をうち、俺にまとわりつく。
『お前はそんな事を望むべきじゃない。付喪神、ツクモノマエは人に寄り添うが人には介入しないもんだ』
俺はその風に、ただ打ちのめされる。
『お前さんは何がしたいんだ。お前が彼女を救ったところで、永遠に彼女を愛することなんて、呪いを解き続ける事なんてできやしない』
俺は膝をついた。冷たい地面に、おののく。
『何事も、永遠なんて存在しないんだ。お前さんは庇護欲と愛情をはき違えている。お前は、彼女に介入すべきじゃない。人間の事は人間に任せるんだ』
鈴の声は、静かに俺に、俺だけに響いた。
『それがツクモノマエであるお前にできることだ。彼女を、道具として慰める事だ。彼女はそれ以上をお前に望んではいないんだ』
その響きは、俺を諭すように、慰める、ように。
『それが分からないのか』
「俺はツクモノマエなんかじゃ。俺はただの人、で」
『お前さんは馴染んでいるんだよ。ツクモノマエに入れ替わられたからって、入れ替わりの力まで行使できるものじゃない。お前は殆どツクモノマエなんだよ。既にね』
俺が、ツクモノマエ……? 意外な言葉に、身を固くする。
『対して、あのツクモノマエは殆ど人間に近い。何を、どうしたかは知らないがね』
「ピサメ……」
『そうだ』
さっきの事を思い出す。
うう。
俺は……
『これだけ言っても、まだ迷うか。ほんとうに、面白い存在だ……』
鈴は、俺を冷笑するようでいて、ただ在るものとして認めているようにも思えた。
ふらふらと、歩き出す。どこへ。
どこへ――行ったらいいんだ。
■
何も分からない。
街を彷徨ううち、見覚えのある道に出ていることを知る。
覚えのある店。覚えのある道路。覚えのある空。
気が付くと沙良の家の前だった。
いつの間にか、日は高くなっていた。
時刻は分からない。
いったい。
何時間、彷徨っていたんだ。
茫洋と、家を眺める。
動きがある。
二階の窓が開く。
彼女が、顔を出している。
思わず目をやる。
――目が、あった。
は。
彼女は驚きの目で俺を見て。
すぐに顔を引っ込める。かと思うと。すぐに玄関から出てきた。
「どうしたの、きみちゃん?!」
「なんかボロボロだよ? とにかく中へ入って!」
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