@saku-to

第1話

  本


 ベッドの枕元にあるサイドテーブルには、まだ読めていない本がどっさりと積んである。数えてみると、39冊。積読が、39冊ある。3か月前に数えた時は、30冊あるかないかくらいだったのに。1冊読むごとに、なぜか数冊増えていく。読んでも読んでも積読が減ることがない。むしろ増えている。

 一度本屋へ足を踏み入れれば、手ぶらで帰ることがほぼない。好きな作家さんの本、話題の本、装丁が魅惑的な本、題名、紹介文に興味をそそられ、本へと手が吸い寄せられ、いつの間にか、数冊抱えてレジに並んでいる。本屋とは、不思議な夢の空間だ。

 私の幼いころからの夢は、ディズニー映画の美女と野獣に登場する、本の部屋を作ることだ。360度、天井まで本が並ぶ部屋。初めて見た時、その空間に心を奪われた。私の永遠の夢。今は、賃貸の一室が本の部屋となっているが、身長よりも高い本棚と、胸の高さくらいの本棚が、壁を埋めている。加えて少年漫画も好きで、コミックスもひしめき合う中、身長よりも高いガラスケースも2つ並び、キャラクターのフィギュアが詰まっている…。間違いなくこの部屋は、私にとって幸せ空間なのだが、本が増える度に、底が抜けないか心配になる。さらにいつしかやってくるであろう、引っ越しの時のことも心配している。巨大な本棚たちと、段ボール何箱分になるか想像もつかない大量の本、ガラスのショーケース…。我が家はメゾネットタイプのアパートの2階なのだ。引っ越し業者の方に大変申し訳なさすぎる。すごく、嫌だろうな。ごめんなさい。

 いつからこんなに本が好きなのか、はっきりとしたきっかけは思い出せないが、幼いころから、本には触れていたように思う。本棚にぎっしりと詰まった絵本をよく覚えている。母から読み聞かせもよくしてもらっていた。アニメ、ドラマ、映画もよく観るようになり、〝物語〟に魅了されていった。中でも、世界感や、キャラクターたちの心情を文章から想像して自由に空想の世界に潜り込める本にはどんどんハマっていき、成長と共に読む本の文字数が増えていった。

 本の全てが好きだ。魅力的な世界設定、興味深いキャラクター、予想を裏切る展開、心に刺さる言葉、美しい文章、新しい発見。いろんなことを教えてくれて、いろんな世界に連れて行ってくれる物語。そして、本の装丁、花布・しおりの色・形、カバーを外した本本体のデザイン、本の厚み、重み、手触り。紙とインクの匂い、表紙を開いた時に鳴る、『キシキシ』という、これから新しい物語が始まる音。耳にワクワクが届く。そっとページを捲る音、本を閉じた時の音。特に、ハードカバーの本を閉じた時の音は格別だ。『パタン』と物語が心に仕舞われる音。重たい本の、少し重めな『パトン…』という音も大好きだ。

 猫好きの人たちが、猫に顔をうずめて癒される、「猫吸い」なんてよく聞くけれど、私の場合、「本吸い」で癒されている。ページをパラパラッと捲って紙とインクの匂いを吸い込み、『もふもふ』と柔らかくはないけれど、本の重みを感じながら、『サラサラ、ザラザラ、すべすべ、するする、つるつる、でこぼこ』と、表紙のいろんな質感を撫でて、本棚に『スッ』と仕舞われる感覚を味わい、仕舞われた本の背表紙をなぞって、愛でる。目を閉じて、今読んだばかりの物語を頭の中で、心の中で反芻する。


 あぁ、なんて素敵な本のある世界。

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