第5話
同僚兼友人の話を書こう。技術開発部のいる彼はキャラクター性の強い、所謂癖のある人物ではあるが、その癖含めても好印象が残る男だ。(書き起こす際にフェイクをある程度は入れておこう。何かの間違いで公開されたら困る。)
「俺は自他共に認める凡夫。だから、せめて凡夫から落ちないように足掻き続けるんだ」と彼はよく言い、実際に努力を諦めない情熱に満ちた人だ。加えて言うと、それなりのメーカーで技術開発という花形に所属し、チーフというポストについている時点で既にできる人、すごい人ではある。それを指摘すると「みんなが特別なんだ。みんなが特別優しくて、数少ないいい所を見つけてくれるんだ。ありがとう」と返す。
謙虚でネガティブにポジティブな彼は、本当にそう思ってるらしい。
さて、そんな彼について少し書いていこうと思う。
彼に会いたければ午後3時、会社の喫煙所に行けば大抵会える。黄色味がかった窓から空を見つめて、いつと同じ缶コーヒーを飲んでいる。
調子はどうだと聞くと笑いながら最悪の一歩手前だ、と大抵答える。そう言う時は順調な証だ。次の会議には不格好ながら使えるプロトタイプが出てくる。
逆に、「調子が良いね、だからダメだよ」と言う時は本当にそれだ。格好が良いがすぐに露見する欠点が見つかる。
この前会った時に、いつも最悪の一歩手前にいてくれないかと冗談混じりに言ってみた。「それは病みそうだから御免被る」と笑っていた。
それから彼にはまだ会っていない。ただ、珍しいことにメッセージが飛んできた。
ーー最悪の一歩手前だ。
週末の進捗会議は、乗り越えられそうだ。回線の向こうで彼が笑っている気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます