第9話:裏切りのプロトコルと、零の過去

1.混乱の中の緊急作戦会議

俺の成績改ざんという前代未聞の事態に、学園は騒然としていた。しかし、それ以上に危機的なのは、俺のスマートフォンがハッキングされ、部室の場所やメンバーの個人情報が流出寸前だということだ。

俺たちは、職員室から離れた空き教室に避難し、緊急の作戦会議を開いた。

「悠斗、落ち着いて!スマホが狙われたということは、『影の支配者』は、あなたの**『デバッガー能力』**そのものの解析を狙っているのよ」

咲耶は冷静だが、その声には強い危機感が滲む。

「データ流出までの猶予はどれくらいだ、佐倉君?」凛が、俺のスマホの挙動を解析しながら尋ねる。

俺の視界の警告ウィンドウには、ハッキングプログラムの進行度がパーセンテージで表示されていた。

【Hacking Protocol: 85% Completed - Data Breach in 5 minutes】

「5分だ!このままでは、部室の場所も、咲耶たちの名前も、全てが奴らの手に渡る!」

「物理的な遮断は間に合わない。ネットワーク上で、ハッキングプロトコルを**『騙す』**しかないわ」

凛が鋭く言った。

「私の**『無効化』は、エネルギー干渉に特化している。プロトコルのロジックそのものを改ざんするには…零、あなたの『幻惑(イリュージョン)』**が、唯一の希望よ」

零は、ポッキーを咥えたまま、静かに口を開いた。

「私の**『幻惑』は、他者の『認知(データ)』を書き換える能力。対象が人間でも、デジタルなシステムでも、原理は同じ。ハッキングプログラムに、『データは既に転送された』**と錯覚させることはできる」

「ただし、リスクが高い」零は表情を引き締めた。

「ハッキングプログラムのコアに直接干渉するから、もし失敗すれば、私の脳に強烈な**『反動』**がくる。最悪、私自身の記憶の一部が、上書きされる可能性もある」

咲耶が即座に反対した。「危険すぎるわ、黒崎。他の方法を…」

「他に手はないよ、咲耶ちゃん」零は、咲耶の言葉を遮った。

「それに…これは、私の**『過去の罪滅ぼし』**だから」

<h4>2.零の過去と、幻惑の真髄</h4>

零の言葉に、部室の空気が凍り付いた。

「どういう意味だ、零?」俺が尋ねた。

零は、虚ろな目を宙に向けた。

「…私、昔、**『影の支配者』の実験体にされていたんだ。私の能力『幻惑』は、情報の改ざんに特化した能力として、彼らに『兵器』**として利用されていた」

咲耶とひかりが、驚きに目を見開く。

「彼らにとって、私の能力は、世界を**『偽りの情報』で満たすための道具だった。その時、私の能力を使って、無関係な人たちの人生の記録を、いくつか『消して』**しまった」

零は、自嘲気味に笑った。

「だから、情報の上書きとか、ハッキングとか、そういう**『システムへの裏切り』**みたいなバグは、私の過去そのものなの。…今回は、私がケリをつける」

零は、俺のスマホを受け取った。

「佐倉君。あなたの**『裏コード解析』が、私を助けてくれる。ハッキングプロトコルが『完了』と錯覚する、『最低限必要な偽装データ』**のパラメータを教えて」

「わ、分かった!」

俺は、目を閉じ、集中した。俺の視界のウィンドウが、ハッキングプロトコルの内部構造を、まるで回路図のように表示し始めた。

【Hacking Protocol Logic: Data Transfer Complete Condition -> File Size > 10MB, Transfer Time > 60s】

「零!プロトコルが**『完了』**と認識する条件は二つだ!」俺は叫んだ。

「一つは、転送ファイルサイズが10MB以上!もう一つは、転送時間が60秒以上!…偽のデータで、この二つの条件を満たせばいい!」

<h4>3.プロトコルの裏切りと、零の決意</h4>

「10MB以上の偽装データ…60秒の転送時間…了解」

零は、目を閉じ、能力を発動させた。彼女の周囲の空間が、虹色の霧に包まれる。

**『幻惑(イリュージョン)』**のデジタル版。

彼女の意識が、俺のスマホのネットワークの最深部へと潜り込む。

「ハッキングプログラムに、**『偽の巨大ファイル』を読み込ませる幻惑をかける。…そして、『時間の流れ』**を騙す。システムにとっての60秒を、現実の10秒で通過させる!」

Hacking Protocol: 89% -> 91% -> 94%...

ハッキングプロトコルの進行度が、恐ろしい速度で加速していく。

零の顔に、苦悶の表情が浮かんだ。能力の反動が来ている。

「くっ…コアが、抵抗してくる…!情報の改ざんは、私の脳にも負荷がかかる…!」

「零!」ひかりが心配そうな声を上げる。

俺は、祈るように、進行度を見つめた。

Hacking Protocol: 98% -> 99% -> 100%...

そして、100%に到達した瞬間、警告ウィンドウが切り替わった。

【Hacking Protocol: Protocol Completed - Transfer Successful】

【Bug Corrected - Unauthorized Access Terminated】

成功。ハッキングプログラムは、俺のスマホから、**『偽の転送完了データ』**を奪って、満足気に活動を停止したのだ。

零は、崩れるように地面に座り込んだ。

「…やった…これで、奴らは、**『無意味な情報(ゴミ)』**を握らされたことになる」

「お疲れ様、零。よくやってくれたわ」咲耶が、静かに零に歩み寄り、肩に手を置く。

零は、俺に顔を向けた。

「佐倉君。…あなたの**『裏コード解析』がなければ、私の『幻惑』**は、ただの空回りだった。ありがとう」

俺の心臓は高鳴っていた。美少女たちからの信頼。そして、この世界のシステムの『鍵』として機能したという実感。

俺は、もうただの陰キャではない。『放課後チート同盟』の、かけがえのないブレインなのだ。

だが、『影の支配者』は、俺の成績を改ざんし、俺を**『目立つ存在』**にした。彼らは、次のステージへと、俺たちを強制的に引きずり込もうとしている。

—―第9話 完—―


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