5-7
「城戸さん達がいたから、びっくりして」
樹は頭を下げて、桧和が髪についた雨水を拭き取る。
不思議なことに、一度の拭き上げで樹の髪はすっかり乾いていた。
「妹ちゃん……学校は?」
「雨が凄いから休んだ。面倒くさくて」
今度は、最初からコミュニケーションに応じてくれた。この一週間、無駄を繰り返してきたことを考えると、以前の桧和との対話は無駄ではなかったのだと感じさせてくれて、朗義は少し嬉しかった。
桧和は上から下まで、朗義の体を眺めた後、
「お風呂、入っていけば」
「えっ」
「うん。沸かしてくれる? ひーちゃん」
「いや、そこまでは。お母様も迷惑でしょうし」
樹はにやり、と微笑んで、
「今日、お母さんいないんです。お父さんの家に行ったみたいで」
旦那とは別居状態だと、真智が言っていた。
樹が父親のことを言葉にした時、躊躇う様子はなかった。当の本人からすれば触れづらい話題という訳でもないのだろう。親子関係が良好である証左だ。
とはいえ、夫婦仲が悪いというのも考えにくい。いくら真智が役席の銀行員とはいえ、これだけの家を建てるのは難しい。父親の稼ぎが世帯収入の大半を占めているのであれば納得できるが、それならば必然、家に残るのは父親の方ではないか。
「何してるの。早く入りなよ」
ぼうっとして、雨に打たれたままだった。頭に被せたハンドタオルはすっかり雨水を吸って、重くなっている。手で絞って、水気を切る。
それじゃあ、と言って二度目の玄関をくぐろうとして、
「ああ……すみません。その、靴下まで濡れていて」
「これ、使って」
桧和が追加のバスタオルを、丹尾の分まで持ってきてくれた。
「ごめんね。ありがとう」
靴下を脱ぎ、全身を満遍なく拭き上げてようやく敷居を跨ぐことが出来た。
「お風呂たまるまで、少し待ってて。城戸さん」
そう言って浴室へと向かおうとする桧和に樹が、
「ひーちゃん。この前の呼び方、しないの?」
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