5-8
「……城戸さんの前でその話するのやめて」
自分の話題になっていると朗義は勘づいて、少しむずむずした。
何のことですか、と興味本位で聞くと、
「ひーちゃん、可愛いんですよ。あの日城戸さんが帰った後、城戸さんのことをお──」
「お姉ちゃんっ」
桧和の一喝がリビングに反響してから数秒、雨音だけが聞こえた。
丹尾に至ってはあまりの驚きに、目が開き切っている。
「ごめんごめん」
「……何でもないからね。城戸さん」
「う、うん」
以前よりも鋭い眼光で睨まれて、すくんでしまった。相手は小学生だというのに。
そのまま桧和はリビングの奥へと向かって、姿を消した。
「うへえ。大豪邸っす」
「ソファ、使ってください。お茶は……すみません、ちょっと待ってくださいね」
ソファというのは、このリビングの中でも一際値の張りそうなL字のカウチソファのことであろうか。革のところどころに経年変化の出ているそれには大きな傷もなく、大切に扱われていることが一目で分かる。両端に添えられた四つのクッションですら一つ数万はするだろう。そんなものを使ってください、などと言われて無遠慮に座れるほど、上品な格好はしていない。傷などつけてしまえば、一体いくら請求されてしまうのか。
「いいんすか、楔野さん。私たちこんなナリっすよ」
「濡れたって構いませんよ。お母さんいませんから、内緒です」
「それじゃあ、お言葉に甘えるっす。ほら、師匠も座るっす」
朗義が静止する間もなく、わーい、などと言い音を立ててソファに座る丹尾であった。
朗義は気を遣いながらおっかなびっくりと腰を下ろす。体全体を包み込むように、座面が徐々に沈む。疲れを全て忘れそうになるくらいには、心地がよい。スフェーンの応接間にあるソファもこれくらいの高級品であったら喜ばれるだろうな、などと店がどうなるかも分からない状況の中でそう思った。
背筋くらいは伸ばしておこうと考えていた朗義であったが、気がつけば体重を全て預けていた。
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