4-5

「師匠、また叱られちゃったっすね」

 だが朗義はまだ、人形作家という自分のアイデンティティをすぐには手放せなかった。

 この惨状を前にして、師匠などと呼んでくれる丹尾の前でくらい、少しは強がっていたいからだ。

「丹尾」

「なんすか」

「片付け、手伝ってくれるか」

「もちろんっす。こういう時のバイトっす」

 二の腕を誇示するように二度叩き、丹尾はフローリングワイパーを押し入れから取り出した。新品同然で、使い捨てのシートも大量に残っている。

「あ、口が開いててシートが全部カピカピっす」

 最後に使ったのはいつであったろう。工房の掃除など、この一年全くしていない。

「……新しいの開けていいから」

 靴下を脱いで、張り付いた粘土を落とす。だがすぐに素の足裏に粉が張り付いてしまい、意味のないことをしたな、と気を落とした。

 よく見れば、朗義の履いているデニムパンツの膝に血が滲んでいた。当然、生地にも穴が空いている。おそらくは破片が突き刺さっていたのだろう。やはりまだ、痛みは感じない。

 これからどうしようか。

 今すぐにでも樹に謝罪したい気持ちはあるが、そんなものは自己満足に過ぎない。家に押しかけて全てを打ち明けたところで、樹が困るだけだ。

 それよりも考えなければならないのは、己の処遇であろう。

「丹尾」

 なんと言おうか。お前にはドールを教えられない。店は畳もうと思う。色々な言葉が浮かび上がってくる。今すぐには手放せない立場だったとしても、自らに貼られたレッテルは半人前以下の人形作家という唾棄すべきものだ。

 ならば、先に決断だけしてしまえばよい。気持ちなど、どうせ後からついてくる。

「その、だな」

 大きな破片を拾う為にしゃがみ込んだ丹尾から聞こえてきたのは、

「うるせえっす」

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