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「納品日はいつだ」

「……決まってない、です」

「そうか。なら期限は一ヶ月だ。俺はそれまで一切顔を出さん」

 一ヶ月、それも樹ではなく辰良を納得させるものを完成させるビジョンなどどう考えても浮かんでこない。事実、オーロラの完成には一年を要している。

 失意の底からさらなる失意の到来によりようやく顔を上げた朗義であったが、辰良はそれを視界にすら収めていない。

「報酬など、受け取るな。お前にはほとほと失望した。改めるべき点も、俺が許せない点も、全て自分で気づけ。それが出来なかったのなら、そうだな」

 辰良の足が、一定のリズムを刻みながら、

「殺してやる。城戸辰良に子供などいなかった、ということにしておこう」

「……親父」

「そう呼べるのも最後かもな。俺は帰る」

 辰良は呟きながら、階段を降りていく。

 その言葉からネガティブな感情は、一切伝わってこなかった。

「辰良先生、お帰りっすか」

「あんなろくでなしに構うのはやめておけ、丹尾くん」

 辰良と丹尾が何かを話している。涙を拭う音と少しの嗚咽で、よく聞こえない。

「……そうか。じゃあ、また」

 小さく耳に届いた声を最後に、またドアベルが鳴った。

 間も無くして、ととと、という音と共に丹尾が近づいてくる。急いで呼吸を整えて、目尻の涙を拭う。こんなことをしても、いくら丹尾でも何が起きたかくらいは気がつくだろう。

 お願いだから、こういう時くらいはゆっくりと階段を登って欲しい。

「師匠」

 丹尾は、いつもと変わらない態度で話しかけてくれる。それでも彼女が姿を現した瞬間、朗義は顔を逸らしてしまった。

 視界に映るのは、窓越しに広がる嫌味たらしい晴天のみである。

「……酷い有様っすね。流石に可哀想っす」

「うるさいな」

 悪態をつくほど、朗義の心は数えきれない感情に苛まれている。

 自分でどれだけよいものが作れたと思っても、辰良が駄作と言えば駄作、悪くないと言えば可も不可もない。そういった環境の中で研鑽に励んでいた朗義にとって、辰良は絶対の存在である。免許皆伝となったオーロラですら、よいドールだと明言されたことは一度もない。

 朗義の心はたちまち、嫌悪に包まれた。

 辰良が原型を壊したことは、もうよい。はなから激昂する気すらなかった。あの指たちは、原型でありながらすでに駄作であったというだけだ。朗義にとっては、現実を受け入れるほかない。

 その駄作で多額の報酬を受け取ろうとした自らの下心と、無意識の慢心を恥じる。

 そして何よりも、樹という依頼人を自分のくだらない自尊心で推し量った自分自身への嫌悪が止まらない。

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