退職届と恋心、セットでご注文の三山先生。
五月雨恋
退職届と恋心、セットでご注文の三山先生。
緑が徐々に色づき、秋の深まりを感じる頃。
高校二年、
そんな私が、今日も進路指導室へ足を運ぶ。
「失礼します」
私はキチンとしたギャルなので、語尾は伸ばさない。……普段もたぶん。
「
奥で書類を整えていた担任の
ひょろっと背が高くて、くせ毛を軽くセンター分け。銀縁の眼鏡に、白い肌、眠そうな目。――そんな男だ。
「そこで勉強しても良いですか?」
進路指導室の片隅を指さすと、先生はわざわざ姿勢を正して言った。
「いや、その前に一つ言っておきたい事がある」
「結構です」
予想はついている。二択だから。
「
「聞こえません」
はい、告白のほう。
「良かった。OKだったら教師を辞めないといけないからな」
そう言って胸ポケットから退職届をスッと取り出し、静かに鞄へしまう。
これ、ほぼ毎日のルーティン。なんて嫌な習慣なんだろう。
「告白だけでもアウトですよね?」
「
先生はいそいそと退職届をまた取り出す。
「でも聞こえてないのでセーフかもしれません」
「
今度はニッコリ笑って、また仕舞う。
……本当に、何をやってるんだろう、この人。
「先生って、ギャル好きなんですか?」
「今は好きだな。
即答か。
「じゃあ、どんな子がタイプなんですか?」
「
ドヤ顔で言うな。
「私、母親似で目元だけ父親似なんですよ」
「ふむ……」
先生はしばし考え込み、真顔で言った。
「……お義父さんの目を、直視できないかもしれない」
……“お父さん”の字が違う気がした。
「だから
「なんでですか?」
「結婚するには挨拶がいるだろ?」
「いやしないし。進路調査票にも“大学進学”って書いたじゃないですか」
「それなんだが」
「大学は四年。短大でも二年だ」
「そうですね」
「俺に、そんなに待てと?」
「結婚したいなら、その辺の誰かと結婚すれば良いじゃないですか」
「嫌だ。
「バカなんですか?私の進路を勝手に決めないでください。大体
「当たり前だ。俺が
「……」
私はしばし考える。いや、これ完全にアウトじゃない?
先生はハッとした顔で、また退職届を取り出した。
「これはおそらく……パワハラに該当する」
「私が大学に行けば、セーフになるんじゃないですか?」
私はカバンから勉強道具を出し、黙々と机に広げる。
先生はしばし頭を抱えていたけど、結局は頬杖をつきながら、じっとこちらを見ている。
「……なんですか?」
「いや、横顔も綺麗だなって」
先生はそう言って笑った。
……ほんと、ばーか。
退職届と恋心、セットでご注文の三山先生。 五月雨恋 @samidareren
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