シガレットコンプレックス

@minirekiss

和泉京の夢想

またあの夢だ。僕の視点はなんだかいつもよりすごく低くて、現実感がない。そして胸が押さえつけられたようにとても息苦しいのだ。目の前に煙を身にまとった男の広い背中がある。僕はその人の広い背中をただじっと見つめることしか出来ない。この人は、誰だったっけ。思い出そうとすると、その存在が煙に巻かれたように白く霞んで、輪郭を保てなくなる。「けい」「けいくん」ふと、低く、重たい声が脳裏に響いた。そして、鼻先にふわりと薫る、苦い薫り。煙草の薫りだ。思い出した。あの人はいつもタバコを吸っていたんだ。僕の肺胞の奥に染み付き、記憶の隅に焼き付いて離れない。

苦いタバコの薫り。

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