シガレットコンプレックス

街中でその薫りがすると、今でも振り返って立ち止まってしまうことがある。僕の肺胞の奥にまで染み付いて記憶された、苦い煙草の薫り。


高校生の和泉 京(いずみ けい)は母親と二人
暮し。彼は父親の記憶が無い。覚えているの
はその広い背中と、苦い煙草の薫りだけ。
そんなある日、京の前にある一人の男が現れる。その男には、幼い頃に確かに嗅いだことのあるあの煙草の薫りが染み付いていた。

その男との出会いから、京のなかで抑え込まれていた欲望があらわになる。

そして、男が姿をくらませたことで、京の中に残った薫りの呪縛は、同じように煙の中で息をする、先輩の西嶋、化学教師の森をもその呪いの渦に巻き込んでいく。

「罪」と呼ぶには切なく「愛」と呼ぶにはあまりにも拙い、煙の中でもがく少年の物語。