第6話 魔族の名
「どうして勇者一行とやらは、おなじみのセリフを吐くのだろうな。あやつらが傷つけようとする敵も似たような想いを抱くだろうに」
「さぁ。僕は勇者じゃないからわからない」
「さてはお主。勇者になれなかったことを根に持っているのだろう?」
「それはもう存分に」
僕は少女の返答を待たずに跳ぶ。それを見てリイナが火球を打ち出した。
火球へ魔力をかける時間が足りなかったのだろう。人の頭ほどしかない火球の中央へ僕は拳を突き立て、火球の中央に達した後で、強く横へ薙ぐ。
「炎は刃の先に触れる一瞬だけ強く熱を帯びる。肌に届く前に払い落とせば、熱は散って消える。火球の魔法が持つ熱源は中央にあるのだろう? 薪を消すのと変わりないよ。加えて薪よりも小さな熱源ならば、消すのはたやすい」
「そんな。ただの平民がなんで?」
力なく崩れ落ちるリイナに、僕は膝をついて視線を寄せた。
「ふたりを連れて帰ってくれないかな。気絶しているけど、ここら辺にも魔獣はウヨウヨしている。危険なんだ」
リイナは何度も首を縦に振って答えた。僕が振り返ると、少女はいつの間にか立ち上がり、じっと僕を見つめている。
「殺さなくてもいいのか? いずれまた襲いにくるぞ? 勇者の恐ろしさはそのプライドだ。自身の誇りを守るためなら、手段を選ばない」
年齢を超越したような言葉遣いに、僕は違和感を覚えた。少女の言葉は重く、周囲の喧騒をかき消し、僕の耳へ届く。
「そうしたらまた追い払うよ。彼らに僕の村はわからない。森の奥深くにあるから。それに僕に勝てないようじゃ、魔獣に襲われ命を失うのは見えている」
「甘いな。まぁいい。それにしても腹が減った」
「僕もだよ。ともかく援軍が来ないうちに逃げよう。今度こそ、キミの名前を聞いていい? 僕はセリア・ノートリアル」
「妾はフェリス・ハートスライス。よろしくな。セリア」
「物騒な名前だな。こちらこそよろしく」
僕が差し出した右手に、フェリスはおずおずと右手を差し出して応える。アーデルハイトの言葉を信じるなら、彼女は魔族であり、人に害をなして勇者に滅ぼされる運命の生き物だ。しかし、フェリスを見る限り、とてもそんな存在には思えなかった。
勇者でなくても人を救うことはできる。そんな当たり前のことを、僕は忘れていた。勇者の特権に目を眩ませていた自分が恥ずかしくなる。そして僕はフェリスを抱きかかえ、森の中にある自分の家へと急いだ
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