第3話 お疲れ^ ^
「あのー…かりん先輩、何故俺は引きずられているんです?」
「うーん、とりあえず来てね」
「返答になってない!?」
「抵抗は無駄だよ」
「あ、これ会話通じないやつだ」
というかかりん先輩本当に力強いな…制服がミチミチいってるんだけど。いくら華奢とはいえ一人の人間を引きずってるの相当おかしくないか?でも末治とかビンタで龍司がぶっ飛んでくるシーンとかあったし、この世界の女の子ってみんなゴリラな可能性があるよな。
「凛君、今なんか失礼なこと考えてなかった?」
「いえいえそんなことあろうはずがございません」
「…怪しい」
バレてぇら。女の勘って怖いな…あれ待って俺も女のはずなんだけど。
「あ、そうそう。凛君にお客さんが来てるんでした。引っ張ってきた理由、言い忘れてましたね」
「今更ですか!?」
「あはは…ええと、ここ…だね?うん、ここだここだ。この部屋の扉の先にお客さんがいますよ。私はお茶を淹れてくるのでお話ししててください」
「はぁ…わかりました」
かりん先輩は小さく笑うとお茶を淹れにいくとは思えないほどの速度でその場から消えていった。…お茶を淹れにいくんだよな?
「…焦りすぎじゃないですかね…お茶淹れるのにあんなに急がなくてもいいだろうに」
俺は扉をノックしてから、部屋に入る。瞬間、
「ふんっ!」
「危ねえよっ!?」
拳が飛んできた。その拳の持ち主は彩羽末治であり、龍司があわあわしてなんとか止めようとしてるのも見えた。ギリギリ避けたけど完全に殴るつもりだっただろ。というかやっぱりこの世界の女衆ってゴリラなんじゃないか?
「末治、ダメだって…ほら、殴りにきたわけじゃないでしょ!」
「ごめんなさい、こいつの顔を見たら反射的に」
「…とんでもない暴力女がいたもんだ」
「あ゛あ゛ん?」
「末治、落ち着いて…凛君も煽るのやめて…」
「知り合いって言ってたから連れてきたのに…置いてくるんだった」
龍司が拳を振るって大暴れする末治に若干涙目になっているのを眺めていると、部屋の奥の方から声が聞こえてきた。影が薄すぎて気づかなかったが、そこにはため息を吐いて憂鬱そうにしている少女がいた。
「…俺に何か用があるということでよろしいでしょうか?
俺は暴れる末治と苦労する龍司を放置して、少女…花菜生徒会長の前のソファに腰掛ける。すると花菜生徒会長はとても面倒そうに、
「ああ、はい、本当に、本っ当にめんどくさいんですけど、レイ・プリマステラについて何か知っているかもだから聞き出してこいと言われまして…何もないと言ってください仕事増やさないで欲しいですもう今四日連続で寝れてないんですお願いですから勘弁してくださいそういうのは別の担当者…楓君とかにお願いします私に言わないでください」
「…俺が何も知らない人間でよかったですね…そういうのは実際に目撃した人とかに聞いた方がいいのでは?」
「もう聞いたんですよ…聞いたんですけど!一応君もあのダンジョン内にいたから!仕事が!増えたんですよ!」
「なんか…すみません」
「本当にもう大変なんですよ生徒会長です、私は生徒会長なのに学園長に仕事を押し付けられるんですよどうなってるんですかなんなんですかあの学園長は私に仕事を押し付けるだけ押し付けてすぐどっか消えるし押し付けられた仕事が終わらないと帰ってこないし帰ってきたとしても私の姿を見た瞬間逃げるし終わってます、あの学園長は紛れもなく終わってますよ」
原作でもそうだったけど苦労をため込んでるよな…。…で、龍司と末治はいつまでわちゃわちゃしてるんだろうか。
「なんというか…大変なんですね」
「もう本当に大変なんですよ…しかもそれに加えてSランクの仕事もあるんですよ、一体どうしてくれるんですか」
早く休みたい、休みたい…と、うわごとのように呟く彼女を見て、俺は少しブルーな気持ちになった。そしていいアイデアを思いつき、提案してみることにした。
「花菜生徒会長、いい案があるんですけど聞いてみるだけ聞いてみませんか?」
「はぁ…なんです?私の仕事が増えるのであれば承りませんよ?」
「それは…」
**********
「バカじゃん」
「俺体動かすの好きだし、まあいいかーって」
「やっぱバカじゃない?」
「よくやってぞ凛、これで私も運動不足を解消できる」
「美鶴、これ終わったら独房行きだよ」
「えっやだりんたすけて」
「多分俺も独房行きだと思うので一緒に死にましょう」
「凛君は…何もなしでいいか。凛君まで捕まえちゃうと救助依頼誰も受けれなくなるし」
「どうして…」
俺が花菜生徒会長に提案した作戦…その名も、交流会!俺、美鶴先輩、龍司、末治でお互いを高め合うために模擬戦を行うという名目で行われる花菜生徒会長の休み時間だ。彼女は今保健室の布団を占領して睡眠中であり、何かあった時のためにムイちゃんが付き添ってるんだとか。それはそうと…
「凛シバく。勝つ。OK?」
「よくはないんじゃないかな…」
「あ゛あ゛ん?」
「ひっ、なんでもありません!」
「よし」
…あっちはあっちで何してんだよ。あと末治は俺に対する殺意が高すぎるだろ。どんだけヘイト溜まってんだよ。…よく考えたら煽ってるの俺だったな。
「よし、じゃあ始めましょうか。最初はペアで戦う感じで!両者準備はいいですかー?」
かりん先輩の言葉に、俺、美鶴先輩、末治は固有武器を取り出し、龍司は腰に装備した星塵の龍剣を抜く。かりん先輩と界那先輩が距離を取り、かりん先輩が「始め!」と言う声が小さく聞こえた。その瞬間、末治が風の魔法を纏った拳で殴りかかってきた。正直、それは読んでいた。
「甘いな」
拳をスレスレで回避し、短剣で薄く切り付けようとする。しかし、金属がぶつかり合う甲高い音が聞こえ、短剣が止まった。剣の側面で防がれており、その特徴的な青い刀身に、俺は見覚えがあった。『星塵の龍剣』。
「はあっ!」
「おっと」
振るわれた剣を、短剣を使って静かにいなす。俺の側面を取ろうとする末治を短剣で牽制しつつ、完璧な間合い調整で龍司の剣がギリギリ届かない位置をキープする。
「一人で突っ込むだなんて、随分と勇敢じゃない」
「勇敢?いや、そんなことはないな。『信頼』って言ってくれよ」
凛の背後から、無数の火、水、風の弾丸が飛来する。…凛に向かって。
「え?あーちょいちょいちょいちょい!美鶴先輩!?そういうのいいのでちゃんとやってくださいよぉ!?」
「すまない凛…金欠でな」
「賄賂ぉ!?」
「お金は弾むわ、三対一よ!」
「そんなんでいいのかお前は!龍司ぃ!なんとか言え!」
「あはは、あは、は…ごめんね」
龍司は謝りながら星塵の龍剣を構える。それなりに離れた距離から見ていた界那がその状況を見て、ニチャアッと笑った。
「凛…お疲れ^ ^」
「界那先輩は後で覚えてろよマジで」
本当に面倒なことばっか…まあいいけど。
「十分だけ…ですよ!」
俺は短剣を順手から逆手に持ち替え、突進してきた龍司の攻撃を内側へと潜り込むことで回避し、さらに龍司の体の影に入ることで美鶴先輩の攻撃を制限し、魔法を手に纏って拳を振るってきた末治の足を払ったバランスを崩させる。龍司が距離を取ろうとしたので胸倉を掴んで引き寄せ、無理矢理密着状況を作り出す。片方の短剣で星塵の龍剣を絡め取り、バランスを崩した龍司の腹に蹴りを入れる。
「っ〜!」
龍司は星塵の龍剣を取り落とすことはなかったが相当痛かったらしく、剣を持っていない左手で蹴られた箇所を抑えていた。
「龍司、大丈夫!?」
「だ、大丈夫」
ん?んんん?なーんか龍司の顔が若干赤いような?気のせいだよな?うんうん多分気のせい胸倉掴んで引き寄せた時思いっきり俺の胸押し付けたような気がしなくもないけど気のせい気のせい。うんそうだきっとそのはずだ。
「凛、よそ見なんてしてていいのか?」
「その辺は抜かりないですよ」
直線上から龍司が消えたことで美鶴先輩が水と風の弾丸を放ってくるが、軽い足の動きだけで回避する。こちらに接近してくる龍司の攻撃を短剣でいなし、末治にはとりあえずデコピンしてあしらっておく。龍司は近接戦に慣れているが、やはり末治は今のスタイルに慣れてはいないようだ。
「そのスタイル、合わないだろう?」
「うっさいわね!あんたが意見すんじゃないわよ!」
「事実、合ってない。後衛の方が…向いてる」
俺は末治の拳をパシッと受け止め、軽く捻って関節を極める。
「っ、あぅっ…!」
「こんな風に、簡単に無力化される」
「凛君っ!?」
「ちょっと黙ってろ」
「っ…」
龍司を強く睨みつけ、少し怯んだ瞬間に末治に強い口調で話しかける。
「お前の肉体構造的にそもそも近接戦闘には向いていない。龍司が大好きすぎるあまり隣に立とうとする分には構わんが、忠告させてもらおう。お前は間違いなく、その戦闘スタイルのせいで死ぬことになる」
「っ!黙れ!」
「魔法に秀でたお前が近接戦闘を行うのは普通にバカだ。もし治癒魔法を使える人間が前に出てきたらどうする?真っ先に潰すよな?俺ならそうする。何故ならそいつを潰すだけで敵の回復リソースを大きく削ることができ、それは
「っ…」
「わかったら、さっさと続きをするぞ。お前は後衛として…」
末治の手を離し、模擬戦を再開しようとした…その時だった。顔を上げた時に、視界に僅かながら映った流星のような速度でこちらに向かってくる何か。
それを認識した瞬間、俺の体は動いていた。
「きゃっ!?」
「うぇっ!?」
龍司と末治の襟を掴み、走ってその場から離れる。それと同時に叫んだ。
「かりん先輩!急ぎ花菜生徒会長を」
「ゆっくりして行きなよ、ね?」
「っ!」
耳元に男の声が聞こえた。俺は龍司と末治を前方にぶん投げ、固有武器を取り出して振るわれた攻撃を防ぐ。それと同時にその男の姿を捉えた。
「
「そうですね。はじめまして、穂波凛。では、早速ですが、しばきますね」
「はい?」
「回答は『はい』ということでしっかりしばかせていただきます。準備はよろしいですね?」
「は???」
忘れてた…木葉楓は…
「では…生きて帰れるといいですね」
『ダンジョンアポカリプス』で最も話が通じない人間だった。
すでにボコられた悪役に転生したが、色々暗躍しようと思います 雹牙月夜 @hyogagetsuya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。すでにボコられた悪役に転生したが、色々暗躍しようと思いますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます