逸
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実家近くのこじんまりとした小さな喫茶店。平日の昼間だと言うのに、客は少なくいつも閑古鳥が鳴いている。
だが、珈琲の味は俺好みなのでお気に入りの店だ。店内に流れるクラシックを聴きながら、俺は旬との事を思い出していた。
昔から理屈っぽくて、自分の目で見たモノしか信じない。それが【橘旬】と言う男だった。
学生の頃。肝試しだとか怪談話になると、いつも一歩引いた目で周りを見ていた。
「怖い話は嫌いじゃないけど、信じるかどうかは別だな」
……――――それが、あいつの口癖だった。
根は真面目で、曲がったことが嫌いな性格。論理が通らないことを極端に嫌って、友人と口論になることもしばしばあった。
どんなことがあっても、自分の考えを変えない。それが、あいつの良いとこであり困った部分でもあったのだが……でも、俺はそんなあいつの考えが好きだったし尊敬もしていた。
俺にはない、強さと信念があいつにはあったんだ。
……いつからだろうな、あいつと本気で向き合って話すことが少なくなったのは。お互い社会に出て、忙しさにかまけ親戚の集まりにも顔を出してなかった俺と旬は年に数回連絡を取るくらいになっていた。
あいつの理屈っぽさを鬱陶しく感じた時期もあったが……――――自分の正しさを信じ、他人に流されない。
そうやってまっすぐに生きようとするあいつの背中は、いつも眩しかった。その全てが【橘旬】だったんだと思う。
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