「叔母さんごめんね。こんな時間に来て……」

「良いのよ。それよりも、お財布。

 旬の荷物の中にあると良いわね」

「だね……まぁ、アパートに行くまではあったし。家帰ってから、無い事に気付いて驚いたけど……多分片付けを手伝ってた時、間違えて一緒に詰めちゃったんだよね」

「ほんと、翔くんは昔から変なとこで抜けてるわよね」

「ごめん……俺一人で探すから、叔母さんは夕飯作ってて大丈夫だよ ? 

 伯父さん帰ってきちゃうでしょ ? 」

「そう ? じゃあ、叔母さん台所に居るから何かあったら声かけてね」

「うん」


 旬の実家に着いた俺は、適当な理由をつけて部屋に入れてもらった。常日頃、少々抜けているところがあると周りから良く言われてるが叔母さんにもそう思われていたなんて正直少しショックだ。

 だが、何はともあれ旬の部屋に入る事は出来た。今日、アパートから運んだ荷物の中に例の【呪いの日記帳】はある筈だ。


「さて、探すか……」


 俺は、荷物の入った段ボールを一つ一つ開けて中身を確認する。見落とさないよう、慎重に……

 そして、七個目の段ボールの奥から薄い木箱が出て来た。中を開いて見るが、そこには何もなく。

 違ったかと思い蓋を閉じようとしたが、裏にお札が貼られていることに気が付いた。札が貼られてると言う事は【呪いの日記帳】は、この箱に入れて封じていたのだろう。

 だが、肝心の日記帳はない。おまけによく見ると、札は下半分が無くなっていてまるで燃えた後のように焦げている。


「これは、ヤバい……よな」


 手紙の二枚目に書かれていたことを思い出す。


【『三 【呪いの日記帳】を読み、死んだ者は次の誰かが日記帳の中身を読むまで日記帳の呪いに取り込まれ成仏できない。だから、成仏する為に次の誰かに日記帳を読ませようとしてくる』】


「まさか【呪いの日記帳】を次の誰かに読ませる為に……旬が、どこかに持って行ったのか ? 」


 生前の旬は、自分が助かる為だとしても他人を犠牲に出来るような薄情な奴じゃなかった。でも、死ぬと理性は消えると聞いた事がある。

 それに、呪いに取り込まれているのなら恐らく正気ではないだろう。なんとかして【呪いの日記帳】を探し出さないと……

 その時、ふっと高校の同級生を思い出した。心霊が好きで、自称【オカルトハンター】とか名乗っていた……名前は確か…………


赤坂あかさかもみじだったか……」


 俺は携帯を取り出し電話帳を開く。そして、高校からの親友で大学も同じだったくぼ 慎二しんじに電話をかける。


〈〈もしもし ? 〉〉

「よう、今話せるか ? 」

〈〈大丈夫だけど……

 お前から電話してくるなんて、珍しいな……何かあったか ? 〉〉

「まぁな……ちょっと、確認なんだけどさ。

 お前、赤坂 椛と仲良かったよな ? 」

〈〈……それが、どうした ? 〉〉


 一瞬開いた妙な間に、俺は一抹の不安を覚えた。


「いや、どうしたって訳じゃないんだけど……ちょっと、赤坂に頼みたい事があってな。

 でも、俺あいつと話した事とか無かったし……で、赤坂と仲の良かったお前なら連絡先か住所を知ってるかと思って電話したんだよ」

〈〈そうか……実はな。赤坂、死んだんだよ。

 ちょうど、一ヶ月前だ〉〉

「え……」


 因果は巡ると言うが、まさか旬の死と赤坂の死が一本の線で繋がっているなんてこの時は思ってもいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る