第19話 *
「もういいわ。死ね【ウインドカッター】」
普段は無詠唱の異母妹がわざわざ呪文を唱えた。
呪文を唱えることで威力が増すと言われている。
魔法の刃は、私には届かずに風に弾かれて消えた。
「何?ちょっと、あんたたち押さえてなさいよっ」
異母妹が男二人に命じると、私の両手は再び拘束されたけれど、それも一瞬。
突風が二人を吹き飛ばした。
木にたたきつけられて気を失ってしまった。
「なにをしたの?……まさか、魔法?いつの間に使えるように……」
違う。これは精霊の力だ。
森の中でスライムを踏みそうになったときの横風と同じ。
精霊は私が危険な時に助けてくれる。
「私は魔法は使えない。魔法が使えないくらい小さな加護でも……それでも精霊は私を護ってくれるの。それくらい分かるでしょ?」
「は?何を言ってるの?精霊が風を起こしたとでも言うの?」
むしろ精霊以外の何が風を起こすというの?もしかして魔法が使えるエルフは自分で好きに出せるから精霊が起こした風に気が付かないんだろうか?
「【ウインドカッター】【ウインドカッター】【ウインドカッター】」
異母妹が魔法を私に向けて続けざまに放つけれど、すべて精霊が魔法で打ち消していく。いや、打ち返している。
スパン、スパンッと、異母妹の頬や手を傷つけている。
「だめ、もうやめて」
「ははっ、土下座したって許してあげないわ!」
気が付いていないの?興奮して痛みに鈍くなってる?
「もうっ、何故当たらないの!ならば……【トルネードガースト】」
突風と竜巻を組み合わせた魔法だ。竜巻は垂直の渦だけど、突風は横から吹く。
つまり、横にむいたトルネードが勢いよくこちらに向かってくる上級風魔法。
精霊は難なくトルネードガーストも跳ね返し、異母妹を吹き飛ばした。ミシミシと言う木の音。倒れた木と折り重なって異母妹が倒れた。
「生きてる……よね?」
慌てて近づいて生存を確認する。
エルフは1000年生きるだけあって、ちょっとやそっとで死にはしないだけのことはある。怪我はするし病気にもなるけれど、人間よりも回復力がある。
自分の放った魔法で飛ばされたのだから、自業自得とはいえ、死んでしまっては後味が悪い。
息をしているのを確認してほっと胸をなでおろす。
「ううっ」
男の子の一人がうめき声を上げた。
「まずい、目が覚める前に逃げないと!」
また精霊が護ってくれるのだろうけれど、殺意を向けられれば精神的につらい。
いくら自業自得とはいえ、誰も傷ついてほしくない。
「さようなら、アエラ……。半分だけ血がつながった異母妹」
村から離れよう。
ずっとずっと遠くへ……。
「人間や……ドワーフがいる場所に行っても、精霊さんは一緒にいてくれる?」
エルフとドワーフの仲が悪いのは精霊同士が仲が悪いのかもしれない。もしそうなら、ドワーフと会いたいと思っている私とはお別れになるかも。ちょっと不安になって尋ねる。
ふわふわふわっと、私の全身を暖かい風が包んだ。
「あり、がと……」
涙でにじんだ目元を手の甲でこする。
「精霊さん、森から出るにはどちらへ行けばいい?」
ふわりと、優しく頬を撫でるように風が吹いた。
「南か」
暖かい場所に行けば、サトウキビが生えているかもしれない。
見つけたら絶対黒糖を作ろう!
片栗粉でなんちゃってわらび餅を作って、黒糖で黒蜜を作って食べるんだ!
「楽しみ」
倒れた男の子の持っていた鞄をもらっていく。
「ごめんね……でも、怪我の治療費としていただいておくね」
鞄には採取した果物がいくつか入っていた。
そこに、レンコンとハスの実と片栗粉を包んだ葉っぱをつめた。まだちょっと余裕があったのでまだ引っこ抜いただけの未加工のカタクリも突っ込む。
「さぁ、出発!」
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