第20話 ★

★別視点(三人称)です。以降別視点にはタイトルに★印

16話~19話飛ばした人用の概要→異母妹たちに殺されそうになったから村を完全に捨てる決意をした。

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 エルフの村では騒ぎが起こっていた。

「アエラ!どうしたの!」

 アエラの母親であり、村長の妻が男の子に背負われて村に戻ってきた娘に駆け寄った。

「あの女にやられたのよ」

「あの女?」

 母親は首を傾げた。

 娘自慢ではないが、アエラはかなり大きな魔力を持って生まれた。

 まだ6歳だというのに、すでに上級魔法まで使える。

 村の中でも、アエラはすでに10人の指に入るくらいの実力の持ち主だろう。

「アエラ、あなたをこんな目に合わせたあの女って誰なの?」

「短耳よ」

 アエラの言葉に、母親が目をむいた。

「なんですって?あの無能が私の大事なアエラに。お父様に言ってお仕置きをしてもらいましょう!」

「お父様に?じゃあ、あの女が何をしてきても大丈夫よね。だって、お父様は世界一強いんだもの」

 アエラが嬉しそうに微笑んだ。

「まずは休みなさい。怪我も診てもらわないとね。あなたたち、アエラを護れなかった罪は問わないから、短耳にやられたと村を回ってきなさい」

 母親がアエラの取り巻きをしている二人の少年に声をかけた。

 アエラは6歳。二人の少年は10歳と12歳だ。

 将来、アエラと結婚して村長になる野望を持っている。

 1000年生きるエルフにとって、20や50の年の差など些細なことだ。村にはアエラにふさわしい男はこれから生まれるかもしれない。エルフの王族と縁が生まれるかもしれないと、母親は二人をアエラの婿にとは全く考えていなかった。

「だけど、アエラをあんな目に合わせたのはいったい誰なの?」

 義娘に魔法が使えるはずがない。だとすれば誰かが陰ながら助けた?

「もしかすると……耳が短かろうが、魔法が使えなかろうが、村長の娘であることは変わりない……。しかも長子だ。誰かが、あの子と結婚して村長の座に就こうとしている?」

 村の人間がそんなことを考えるとは思えない。だとすれば、はぐれエルフか。

 どこかの村を追い出されたエルフ。追い出されるにはそれなりの理由があったはずだ。一番考えられるのは素行が悪くての追放。追放されるようなエルフであれば、どんな手段を使ってでも、自分の野望のために村に入り込むかもしれない。

 母親が親指の爪を噛んだ。

「村長になるのはアエラよ」

 母親は、すぐに村長の家へと向かった。

 部屋に入るよりも前に、大きな声が聞こえてくる。

「なんですとっ!アエラお嬢様が、怪我を負ったのは、異母姉の使った風魔法のせいですと?」

 この声は、村の長老の声だ。

 900歳を超えると、見た目が老いていく。そろそろ死期に近づいたおいぼれだが、村での発言力は村長に次いである。

「ああ、アエラはそう言っている。しかし、あの娘は魔力がなく魔法が使えなかったはずだ」

 そのままアエラの母親はドアの前に立ち、漏れてくる会話に聞き耳を立てていた。

「ああ、なんてことじゃ。まさかあの話は本当だったんじゃ……。あの子は精霊の加護を持っておるんじゃろう。魔法は精霊が起こしたに違いない」

 長老の言葉に、すぐに村長が答えた。

「何を言っている?精霊の加護がないから魔法が使えないのだろう?」

 長老が言葉を続けた。

「いいや。わしも小さなころに大人たちの話を盗み聞いただけじゃ。今まで信じてはおらなんだ。魔法が使えるのは精霊の加護のおかげではないと」

「どういうことだ?」

 は?長老は何を言っているの?

「人間は魔法が使える者が少なく、魔力はエルフよりずっと少ないのは知っておるじゃろう」

「ああ、それは森とともに生きていないから加護がないんだろう?」

「それが、人間では魔力のあるなしは生まれつき、我らの魔力が高いのは種族によるものだという考えがあるらしいんじゃ。そして、精霊の加護を得る人間が使う魔法は精霊魔法と言って、魔力とは関係なく使えるらしいんじゃよ」

 どういうことだろうと、母親が首を傾げる。村長も同様のようで、長老に聞き返した。

「つまり、どういうことだ?」

「わしらが魔法が使えるのは何も加護があるからではないということじゃ」

「加護が、ない?」

「そう、生まれつき魔力があるだけの話じゃ」

 そんな。それじゃあ、魔力が高く生まれたアエラは精霊に愛されて特別強い加護を得たわけではないの?

「……わしが子供のころに盗み聞いた話じゃとな、2つ向こうの村に珍しく加護持ちの子が生まれたという話じゃった」

「なぜ、加護持ちだと分かったんだ?」

 長老の次の言葉に母親は悪い予感しかしなかった。

「魔力がずいぶんと低いのに、それに見合わぬ強力な魔法が使えたそうじゃ。それが、人間の言うところの精霊魔法、精霊の加護じゃないかと言っておった」

 まさか、そんな。悪い予感が当たり、母親の心臓がドクンとはねた。

「魔力がないはずの子が、アエラほどの風魔法をはねのけたのだとすると、精霊が力を貸したとしか思えんのじゃよ……」

「まさか……あの子に精霊の加護があり、我々には加護がないということか?にわかには信じられない……だが、もしそれが本当だとすれば」

 盗み聞きをしていた母親はその場から逃げ出した。

 本当だったらなんだと言うの?

 今さらあの子を手元に置いてかわいがるとでも?

 長子として扱い、ゆくゆくは跡を継がせるとでも?

「許せない。村長になるのはアエラよ」

 あの子を見つけて始末しなければ。

 アエラの母親は、そのまま村を出ると、実家のある隣村へと急いだ。

 

 

 


 

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御覧いただきありがとうございます。

第一章終了。次から第二章です!引き続きよろしくお願いいたします!


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