第26話 準備
昼下がり、武器屋や鍛冶屋が並ぶ通りは、冒険者や騎士団で賑わいを見せていた。
マリーダとレイブンの二人は、作戦で着用する鎧を探しに来ている。
手には、ピートから受け取った一枚のメモ。内容は『なるべく大きな鎧でお願い』と書いてあった。
「マリーダ!ここに色んな鎧があるぞ」
レイブンに呼ばれて武器屋に入る。
店内には様々な鎧が売られていた。
レイブンは鎧を物色している。
作戦で使う鎧はなるべく大きいもの……。
適した大きさが分からないし、重すぎても動きにくいわよね。
私は店に並べてある鎧を一つずつ吟味していく。
「レイブン、良さそうな鎧見つけた?」
レイブンは店主がいないことを良いことに、勝手に鎧を試着していた。
「これ、かっこいいぞ!」
「勝手に着て大丈夫なの?やめといた方がいいんじゃない?」
「大丈夫、大丈夫」
レイブンはガシャガシャと音を鳴らしながら店内を歩き回る。
怒られても知らないからね。
ガチャ。
店の扉が開き、店主らしき男が入ってきた。
鍛え上げられた太い腕と香ってくる金属の匂いが、いかにも武器屋の店主の雰囲気を醸し出していた。
「おい、坊主!冷やかしか?買いに来たのか?」
「いや、買いに来ました」
あら、レイブン。
さっきまでふざけていたのに、急に大人しくなったわね。
レイブンは被っていた鎧の面を急いで外し、着ていた鎧もすぐに脱いだ。
「鎧は服じゃねぇんだ。遊びで着て、勝手に壊されても困る」
店主に凄まれ、レイブンは目が泳いでいた。
こうなるから注意したのに。
「ごめんなさい。この人、考えるより先に体が動いてしまうんです」
レイブンの頭を掴み、二人で頭を下げた。
「まぁいい……何を買いにきた?」
「大きめの鎧を買いに」
店主はいくつかの鎧を手に取ると、テーブルの上に並べる。
「お前らの身長に合う鎧はこれぐらいだな」
要望通りの大きめの鎧を選んでくれた。
この大きさだと二人で着るには小さすぎるわね。
「もっと大きい鎧はありませんか?」
「どれぐらいだ?」
「私の倍ぐらいの大きさです」
店主は目を細めると、私の体をジロリと見回す。
「そんな鎧どうするんだ」
確かに……そうだったわ。
倍の大きさもの鎧なんて普通は着ない。
何かいい理由ないかしら。
「父さんへのプレゼントです」
「そうか、父へのプレゼントか。分かった」
やるじゃない。
店主は店の奥に入ると、とびきり大きな鎧をテーブルの上に置いた。
全身が鉄に覆われて、顔も保護されている大きな鎧。
身長二メートル以上の人が着てそう。
これなら大きさも十分だし、顔を見られる心配もなさそうね。
「これ下さい」
「父へのプレゼントなんだろ。特別だ。金貨3枚でどうだ」
金貨3枚でいいの!?
鎧の相場は金貨10枚、しかもこれだけ大きかったらそれ以上はしたはず。
レイブン!あんた良くやったわ。
隣でずっと静かにしているレイブンの背中をバチンと叩いた。
「毎度あり」
マリーダとレイブンの二人は、巨大な鎧を二人で抱えて通りを歩いていた。
あまりにも似合わない大きさの鎧を抱えているからか、視線を集めている。
向かう先は寮。
明日に向けて、鎧を着て歩く練習をしないといけない。
「これだけ大きいと持ち運ぶのも大変ね」
レイブンは鎧の殆どを担いでくれている。
「大変だけど大丈夫。俺、鍛えてるから」
レイブンの額からは汗が滝のように流れていた。
「寮まであと少しだから頑張るわよ」
陽の光で鎧が熱くなる。
でも、寮はすぐそこ。
あと少しの辛抱だわ。
――――――(ピート視点)
俺は今日、ウィルさんから司書のペンダントを受け取る予定になっている。
というのも、『ペンダントを貸してもらえたよ。次の週休みに部屋に行くね。』と書かれたウィルさんからの手紙を受け取ったからだ。
だから今は、自室でウィルさんが来るのを待っている。
貴族の力を使ってペンダントを借りることができたらしいけど……貴族の力って凄いんだなって思った。
ウィルさんを待っていると、ドンドン!と扉が叩かれる。
外からウィルさんの声が聞こえてきた。
「ピート君、持ってきたよ」
扉を開けると、手にペンダントを持ったウィルさんが立っていた。
「ありがとうございます」
ペンダントは銀色に光り輝いていて、神々しさを感じる。
ペンダントを間近にみて分かった。
これは確実にあの扉の鍵だ。
「ウィルさん。俺、この鍵を使って図書館に侵入しようかなって思ってるんですけど、一緒にどうですか?」
俺は考えていた作戦をウィルさんに話す。
「いいね!でも僕は貴族だから、リスクが大きすぎて一緒は厳しいかな」
貴族だと侵入がバレた後のリスクが大きいか……。
「でも協力はするよ、楽しそうだし」
「協力してくれるんですか!?」
「もちろん!何か他に力になれそうな事ある?」
貴族の変装をするためには、どうしても貴族のバッヂが必要だったんだ。
ダメ元で聞いてみるか。
「じゃあ貴族のバッヂを一日でいいので貸して下さい」
「いいよ」
ウィルさんはバッチを外すと、俺の掌の上にペンダントとバッヂの二つを乗せた。
「へっ?」
本気で貸してもらえるとは思ってなかったから、思わず変な声が出てしまった。
「本当にいいんですか?」
「もちろん」
バッヂを丁寧に胸のポケットにしまい、ウィルさんに頭を下げる。
「じゃ!僕は扉の先に何があるのかを楽しみに待ってるね」
ウィルさんは走り去った。
貴族がこの寮に来ることはない。
寮に住んでいる学生達が、去っていくウィルさんを見てボソボソと呟いていた。
まぁ不思議な人だよね。
貴族らしくないっていうか。
そういえば、レイブン達はもう買えたのかな?
ペンダントとバッヂを部屋において、二人を探しに寮の入り口に向かう。
入り口に向かう途中、寮の広場からレイブン達の声が聞こえてきた。
もう帰ってきてたんだ。
広場に行くと、巨大な鎧を纏った兵士がふらふらとしながら、広場を歩き回っていた。
頭から足まで鉄の鎧に覆われた兵士から声が聞こえてくる。
「木にぶつかるわ!!」
「前が見えねぇよ!」
「右よ右!」
ガッシャーン
巨大な兵士は木に衝突し、レイブンとマリーダが鎧の中から飛び出してきた。
練習をしてるみたいだけど、想像より大変そうだ。
「大丈夫か?二人とも」
「……大丈夫だ。でも……ピートが二人に見えるぞ」
レイブンは目を回していて立てそうになかったが、マリーダは何事もなかったかのように、鎧の面をとって地面に座る。
「マリーダは平気そうだな」
「ええ、前が見えてるから避けられたわ」
見ている感じだと、レイブンが慣れたらどうにかなりそうだ。
「そういえば俺、ウィルさんから貴族のバッヂも借りたぞ」
「はぁ!?そんなの渡しちゃダメでしょ!ウィルって人おかしいわよ」
「変わってるとは思うけど、優しい人だよ」
確かに普通の貴族とは違うけど、気さくで良い人なんだよな。
「いててて」
目を回して倒れていたレイブンがようやく上半身を起こしたみたい。
練習の邪魔になりそうだから、そろそろ帰ろうかな。
二人は大丈夫そうだ。
マリーダはレイブンを立ち上がらせると、有無を言わさず肩車させる。
「ほら、続きやるわよ。明日でしょ」
あのマリーダがやる気になっている。
レイブンは自分の顔を叩き、気合を入れると、鎧を着てマリーダを肩車させた。
レイブンの顔についた土の汚れが、二人の練習の激しさを伺わせる。
俺はそんな二人の邪魔をしないように、ゆっくりと広場から離れていった。
そうだ、言い忘れていた。
「明日は夜に教室集合なー!」
俺の大声に、大きな鎧を着た兵士が手を振って応えてくれた。
いよいよ、明日だ。
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