第25話 作戦会議

「いきなり呼び出してどうしたのよ」


 俺はレイブンとマリーダを部屋に呼び出した。

 今は俺の部屋に三人、各々の体制で座っている。

 マリーダは椅子に座り、レイブンは床の上で胡座をかいていた。


 カーテンを閉め、部屋を少し暗くする。

 雰囲気作りが大事だ。

 気分はさながら秘密結社だった。

 

「面白い話を持ってきたんだ」


 俺はベッドの上で胡座をかきながら、床に座る二人に話す。


「……変な話じゃ無いでしょうね」


 マリーダが眉をひそめる横で、レイブンは目を輝かして俺の話を待っている。


「ここだけの話だけど、図書館には地下に続く扉があるんだけど、その地下には“秘密の本”があるらしいんだ」


「なにそれ、どこ情報よ」


「ウィルさんという貴族の先輩からの情報だ」


 マリーダは貴族という言葉に反応すると、更に眉を顰めた。


「どうして貴族が平民にそんな情報を渡すわけ?」


「それは……」


 レイブンは机をバン!と叩き、勢いよく立ち上がった。


「おい、マリーダ!そんなことを気にするんじゃねぇ!つまんねぇぞ!」


「あんたねぇ。貴族って腹黒いの、分かる?裏がないわけないでしょ」


「おい待て、貴族の腹って……黒いのか??」

 レイブンがマリーダの言葉に引っかかる。


 マリーダはそれ以上何も言わなかった。


「マリーダが疑うのも分かるけど、実際にこの目で謎の扉を見つけたんだ」


 俺はマリーダの目を真っ直ぐ見つめた。


「それで……何が言いたいわけよ」


「――図書館に潜入して扉を開けるぞ」


「はぁ!?」

「おおおおお!!」

 マリーダは驚愕して顔が固まり、レイブンは叫んだ。


「バレたら騎士団に捕まるわよ」


「だから、俺は二人に協力して欲しい。作戦があるんだ」

 手を合わせてお願いする。

 

「その話のった!」

 レイブンは床を叩くとまた立ち上がった。


「マリーダもお願い!」


 マリーダはレイブンを横目にため息をつくと、何か覚悟を決めたような顔で俺を見た。


「……分かったわ」


「よし来た!」


 俺は立ち上がり、声高らかに宣言をする。


「作戦名は『図書館大潜入作戦ドラゴン』」


「何それ、ダサいし」


 何言ってんだ?カッコいいだろ。

 サンダードラゴンにファイアードラゴン、とりあえず後ろにドラゴンをつけておけば、なんでもカッコよくなる。

 魔法の言葉だ。


「かっけぇ!」


 ほららレイブンはこのセンスを分かってる。

 俺はレイブンと固い握手を交わした。


「……まぁ名前なんて何でもいいわ。作戦内容は?」


 俺はベッドの下から一枚の地図を取り出す。

 これは手書きした図書館周辺の地図。

 俺の傑作だ。


「これを見てくれ、図書館周辺の地図だ!」


「よく書き込まれているわね」


 マリーダは地図を手に取って、目を凝らす。


「凄いだろ?」

 

 ウィルさんと約束したあの日から、作戦の為に図書館周辺をメモし続けた努力の結晶なんだ。


「それでどうするわけ?」


「貴族と護衛する騎士、三人でその二人に変装して図書館に潜入する」


「無理よそんなの」


「いや、いける」


「大体、どうやって三人で二人の変装するわけ?」


「騎士役を二人でやる。鎧を着て、中で肩車をするんだ」


 マリーダは呆気に取られ、口を半開きにしたまま固まった。


「肩車は任せてくれ」


 レイブンは袖をまくり自慢の力こぶを見せつける。


「もちろんだ!騎士役は下をレイブン、上をマリーダで考えてる」


 レイブンは突然、マリーダを持ち上げて肩車する。


 こんな場所で肩車したら、天井に頭をぶつけるんじゃ……。


「ちょっと!レイブン!」


 肩に乗せられたマリーダは案の定、部屋の天井に頭をぶつけてしまった。


「痛ったぁ」

 

 怒ったマリーダはレイブンの頭を殴る。

 レイブンはその衝撃で体勢を崩してしまい、二人とも床に倒れ込んだ。

 

「こんな馬鹿げた作戦が本気で上手くいくと思ってるの!?」


 マリーダは頭をさすりながら、俺のことを睨んできた。


 今失敗したのは、レイブンがこんな狭い場所で肩車したからで、作戦が悪いわけじゃない。

 レイブンのせいだ。

 俺の作戦通りに動けばきっとうまくいく。


「思ってる。絶対に成功する!信じてほしい」


 シミュレーションなら何回もやった。

 騎士団にバレないような仕草や声真似、バレた時にどうやって行動するとかさ。


「ピートが上手くいくって言ってるから大丈夫だろ」


 レイブンはマリーダの肩に手を乗っける。


「……それで何をすればいい?」


「図書館に本を返し忘れた貴族の付き添いという設定で一緒に図書館に入るんだ」


「それだけ?」


「それだけ」


 マリーダはまだこの完璧な作戦を疑っているようだな。


「安心してくれ。失敗した時のことも考えてある」


「なによ」


「ここから逃げる」


 俺は地図のある場所を指差す。

 それは図書館から伸びた一本の道だった。


「何この道」


「下水道だよ」


 俺が図書館でトイレを借りた時に見つけた逃げ道。

 トイレの床につけられていた扉は、王都に着いた初日に見つけた下水道につながっていた。


「図書館のトイレから下水道に出れるんだ。その下水道を辿れば、学校の外に出られる」


「下水道ねぇ……」


「下水道ってあの時の穴か!?」


 下水道に乗り気じゃないマリーダと対照的に、レイブンはこの作戦にワクワクしていた。


「そう、あの時の穴だよ。この作戦は完璧だろ?」


「まぁ逃げ道を確保しているだけマシね」


 渋々だったけど、マリーダを乗る気にさせたみたいだ。表情が柔らかくなった。

 あとは……あれだな。


 俺はニヤリと笑うと二人の顔を見た。

「作戦を実行する俺たちのパーティー名を決めよう」


「いいなそれ!」


「パーティー名ねぇ」


 作戦を遂行する上で二番目に重要なこと、それは――俺たちのパーティー名だ。

 パーティー名を決めることで、カッコよさが増す。


 俺とレイブンは次々と案を出す。

「『勇者ドラゴン』!」

「『冒険者ドラゴン』!」

「『騎士と冒険者』!」

「『ドラゴン冒険者騎士団』!」


 どの名前もセンスが光っていてカッコいい。

 カッコよすぎて決められない。


 マリーダだけ案を出してないな。


「マリーダも案を出してよ」


「そうね。『ドラゴン団』はどう?」

 マリーダは頬杖をつきながら、ボソッと呟いた。


「「それだ!」」 


 シンプルで分かりやすいしカッコいい。

 名前は決まった。


「俺たちは『ドラゴン団』だ」


 マリーダのセンスがいい。

 センスがいいのに、どうしてそんなに不服そうな顔をしてるんだ?

 マリーダがつけた名前が採用されたのに。


「センスいいぞ!」


「……ええ、そうね」


 なんだか煮え切らない返事だけど良しとするか。


「『ドラゴン団』の明日からの予定を説明する。明日は準備、明後日は潜入だ!」


 

「じゃあ、『ドラゴン団』結成の儀式をやるぞ!手を出すんだ」


 俺の手の上にレイブンはノリノリで手を重ねる。

 マリーダはレイブンに促されて、そっと手を重ねてくれた。


「『ドラゴン団』!いくぞー!」


 


 

 


 


 


 


 




 

 




 

 

 

 


 


 

 

 


 

 

 


 


 


 

 


 

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