第17話 練習の剣

「剣術の授業を担当するドラン・バルゴだ!」


 今日の授業は剣術。

 剣術の授業は、ドラン先生が担当することになっているそうだ。


「お前ら一年は、木剣すら握れない奴がほとんどだろうから、まずは素振りから行うぞ」


 ドラン先生は木剣が入っている木箱を持ってくる。


「ここから一本持っていけ」

 

 木剣を持てないクラスメイトが多そうだ。

 皆んな持ち運ぶのに苦労している。

 木剣って意外と重いんだよね。

 俺も最初は持つことすらできなくてビックリしたよ。


「これにしようかな」


 何年も同じ剣を使っているのか、殆どほ木剣の刃がボロボロだ。

 俺はその中でも、刃が欠けていなさそうな木剣を選んだ。


 マリーダも木剣を持ち運ぶのに苦労している。

 そんなマリーダを見て、レイブンが煽りに行った。

 あ、マリーダに蹴られてる。


「まずは俺の言うとおりに構えをするんだ」


 半分以上のクラスメイトは木剣がふらふらしていて、とても素振りが出来そうに見えない。

 だけど何人かは難なく木剣を構えていた。

 狩りに行っているボボロはしっかりとした構えが出来ていた。


 構えが出来ていない生徒のところにドラン先生が、教えに行き始めた。

 俺も早く木剣を構えないと先生が来そうだ。


 ふぅーっと深呼吸をして、俺も剣を構えた。


「よし、皆んな構えられたな。素振りを始めるぞ」


 先生が数を数え、それに合わせて剣を振る。

 

「剣を振ったことのない奴は、そのまましばらく素振りだ」


 先生が俺とレイブンを指差した。

 

「そこの二人、ちょっと前に来い。ここで素振りをしてみろ」


 先生に呼ばれて、皆んなの前に出る。


「皆んなもよく見ておけ。こう振るのが理想だ」


 俺とレイブンは言われるがままに、素振りをする。

 木剣も体もふらつかず真っ直ぐと振り下ろされる木剣に、クラスメイト達は目を奪われていた。


「あの二人、凄いところもあるじゃない」


「これが手本だ。今日一日でここまで成長することはできないが、一年かければ到達する」


 ありがとうと一言言われ、元居た場所に戻った。


「俺らってもしかして凄いのか?」


「どうだろ」


 同い年で木剣を使って戦える人をレイブンしか知らないから、凄いのかどうかも分からない。

 でも、悪い気分はしなかった。


「木剣が振れる奴らは退屈だろう。俺が軽い模擬戦をしてやる!戦いたい奴はここに並べ」


 退屈していた俺にとっては最高だ。

 俺は同じように退屈していたクラスメイト達と一緒にドラン先生の前に並んだ。

 そして、順番にドラン先生との模擬戦が始まった。


「構えがなってない!お前は素振りからだ!」

「闇雲に振っても相手には当たらんぞ!」


 次々とドラン先生に容赦なく倒されていくクラスメイト達。

 クラスの雰囲気は段々と重くなってきた。


「まだかな」

 レイブンはずっとソワソワしている。

「もうそろそろだと思うけど」


 俺とレイブンは居ても立っても居られなくなっていた。


「よし、最後はお前らだ」


「一人ずつじゃないんですか?」


「せっかくだからな」


 舐められている。

 でも、師匠との特訓の成果を試せる時が来たみたいだ。


「やるぞ!ピート」


「もちろんだ」


「俺達二人なら勝っちまうよ、先生」

 レイブンは先生を挑発する。


「デカい口を叩く一年生なんて久しぶりだ。本気で来ていいぞ」

 先生は怖いぐらい優しい笑顔で答えた。


 お互いに剣を構える。

 呼吸の音だけが聞こえる……まるでこの場に、この三人しかいないような静寂が校庭に流れた。

 間合いを図り、深呼吸をする。


 ――レイブンが飛び出した。


「ここだ!」


 レイブンの鋭い突きに一瞬、先生の反応が遅れる。


「思ったよりもやるようだな」


 だけど先生はその剣を軽くいなして、レイブンに斬りかかる。


「おりゃああ!」


 俺は大きく踏み込み、レイブンに迫っていた先生の剣を弾いた。


「何!?」


 その動揺を隙と捉えたレイブンが剣を振りかぶったけど、先生に蹴り飛ばされてしまった。


 思ったよりも先生が強い。

 中々、上手くいかないや。


 ――クラスメイト達は素振りの手を止めて、模擬戦に釘付けになっていた。

 マリーダもその一人だ。


「立てるか?レイブン」


 レイブンは俺の手を使わず、一人で立ち上がる。


「楽しすぎるぞ」

 服についた砂を払ってレイブンは口角を上げた。


「そうだな」


「ピート!ここから本気で行くぞ」

 普段のレイブンから想像できない本気の顔。


 恐らくアレをやるつもりだ。


「分かった」


 レイブンは剣術に関しては俺より強いし、何よりセンスがあった。

 俺達ならドラン先生を倒せる気がする。


「どうした、来い!」


 先生に挑発されたレイブンが駆けていく。

 俺はその動きに合わせにいった。


 レイブンが先生に斬りかかる。

 ブォン!

 さっきより威力の増したレイブンの剣は先生に届く。

 木剣同士の衝突で鈍い音が校庭に響く。

 レイブンは素早く剣を引くと、俺に道を開けた。


「本命はお前か!!」


 俺は精一杯の突きを先生の剣にぶつける。

 だけど、寸前のところでその剣を弾かれた。


「いい突きだ!だが……」


「もう一人のこと、忘れてますよ」

 剣から手を離すと先生の視界から外れる。


 俺の背後でレイブンはある構えをしていた。


「まさか……【剣技】だと……」


 先生はレイブンの本気に気づいたのか、顔つきが変わった。

 そして……


「【剣技】スラッシュ!」


 レイブンの剣から放たれた空気の刃が先生を襲う。


「お見事だ!」


 だけど先生はその刃を軽く剣で「フン!」と振り払らって、余裕の笑みを浮かべた。


「なっ!」

「嘘だろ……」


 その事実に驚きを隠せなかった。

 今まででいちばんの連携だ。

 それでも、そんな最高の俺たちでも届かなかった……。

 正直、これなら勝てると思っていた。

 

 舐めていたのは俺達の方だったのか。


「二人共いい連携だったぞ。一つアドバイスをするなら、お前らの剣は素直すぎるってことだ。さしづめ、練習の剣ってところだな」


 練習の剣……。

 それが先生に勝てなかった理由……。


「そう悩まなくても大丈夫だ。きっと上手くなる」

 

 ドラン先生は振り返ると、素振りを止めていたクラスメイト達に向き合った。


「この二人がここまで剣を使えるのは、基本の構えができているからだ!素振りを適当にやっていても、ここまで上手くはならないぞ!」


 その言葉にクラスメイト達の目つきが変わった。

 憧れなのか嫉妬なのか分からないけど、俺たちの模擬戦がクラスメイトのやる気に火をつけたみたいだ。


 ――授業が終わると、俺たちの元にマリーダがやってきた。


「あんた達、凄いじゃない。どうしてそんなに剣術が上手なの?」


「師匠に教わったから」

「父さんに教わったから」


 マリーダは笑顔で俺たちに手を差し出した。


「魔法を教えるからさ、私に剣術を教えてよ」


「いいぞ」

「いいぜ」


 差し出された手を握り返す。

 学びの輪が広がるのを感じながらも、達成感と少しの悔しさが胸に残る。

 それでも今日は、俺たちの成果を噛み締めた。

 



 

 


 

 

 

 

 


 

 

 


 


 

 


 


 

 


 

 

 

 

 

 

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