第16話 初授業
今日からいよいよ授業が始まる。
時間割は『魔法学』と『社会』の二つだけ。
二つだけ?
「午前中に終わるのか!?」
俺の声に反応したのか、突然、隣の席に座るマリーダの体が跳ねた。
「ちょっと!急にうるさいわよ」
「ごめん」
「どうしたのよ」
「授業が少ないから午前中に終わるのかなって」
「授業は午前だけで午後は自由よ」
「そうなんだ。詳しいんだな」
「昨日、先生が言っていたじゃない」
「そうだっけ?」
そんな事を話していたら、キリク先生が教室に入ってきた。
「はい皆んな、席についてね。今日の授業は『魔法学』です」
授業内容は魔法の基礎についてだった。
魔法の仕組みや発動の仕方について、先生が分かりやすく解説してくれた。
俺とレイブンは、カイさんや師匠のおかげで今のところ問題なさそうだ。
教室を見渡すと、同じように魔法の基礎が分かっていそうなクラスメイトがチラホラいた。
「ここまでで質問ある人ー?」
「はい!」
「じゃあリュウ君」
「どうすれば、魔法を使えるようになりますか?」
「練習あるのみ。あとで、皆んなで練習に行くから安心してね」
座学が終わると皆んなで練習場へ向かった。
練習場は広い校庭だった。
「まずは魔素を貯める練習から始めようか」
魔素ってなんだ?
魔法が得意そうなマリーダに聞いてみる。
「魔素って何?魔法の素じゃないのか?」
マリーダは俺の言葉に「ぷっ」と吹き出した。
「魔法の素って……そんな古臭い言い方、昔の人しか使わないわよ。それに、魔素と魔法の素は同じだから」
どこか俺を馬鹿にしているような口調でマリーダは説明した。
「聞いてみただけ」
「へー」
俺を馬鹿にしているのが、その表情で伝わってくる。
魔法を教えてくれた師匠が昔の人だっただけだから、俺は恥ずかしくない。
恥ずかしいのは師匠だ。
「魔素を貯めて気分が悪くなった人は、これからその魔素を消費するから大丈夫だよ」
キリク先生が吐きそうになっている生徒の背中をさする。
皆んな最初は同じなんだな。
なんだか懐かしいな……。
ふと隣に目を向けると、マリーダとレイブンが何かやっていった。
「レイブンって容量が小さそうよね」
どうやら揉めているみたいだ。
「じゃあ、どっちが多く魔素を貯められるか勝負しようぜ」
マリーダとレイブンが魔素を貯め始める。
「私は余裕だけど、もう限界?」
「いや、まだまだ貯められるぞ」
やめとけ、レイブン……それ以上は。
「オェ!」
レイブンが地面に四つん這いになる。
器が小さいのに無理するからそうなる。
「ピート……俺は負けたのか?」
「みたいだね」
レイブンは力が抜けたように地面に倒れた。
一方で、マリーダはまだまだ魔素を貯め続けていた。
俺より器が大きいかも。
しばらく貯め続けたマリーダは、「私の圧勝だね」と地面に這いつくばるレイブンを笑った。
「そろそろ魔法を使う練習をしようか」
魔素を貯める練習がひと段落ついたところで先生が話を切り出した。
魔法は想像することが一番大事、その想像を補助するのが呪文であると先生は説明を続けた。
そして目の前で、呪文なしの火魔法を放ってみせた。
あまりに自然な動作に思わず息を呑んだ。
「何回も同じ魔法を使っているうちに、私と同じことができるようになるからね。早速やってみようか」
先生が話し終えると魔法を使う練習が始まった。
皆んな各々、先生に教えてもらった魔法の呪文を唱えている。
「火よ!私の元に集まり、そして敵を燃やす球になれ!【ファイア】!あれ?出ない」
「想像するんだ、呪文はあくまで補助。呪文は火がどうなってほしいって言っている?」
「火の玉?」
「そう、それを想像してみて」
先生は一人一人を見て回っていた。
魔法をすぐに使える人もいれば、そうじゃない人もいる。
既に魔法が使える人は、使えない人に教えたりしていて、鉄棒の逆上がりを習っていた授業を思い出す。
先生の手が空くのを待っていた俺は、タイミングを見計らって先生の元へ駆け寄った。
「キリク先生!」
「どうしたの?ピート君」
「どうやったら魔素を貯める速度が速くなりますか?」
「残念だけど、魔素貯めを早めることは人族には出来ないんだよね。人族以外の種族、例えばエルフ族は出来るけど……」
体の構造的に人が魔素の吸収を速めるのは難しいみたい。
自分に合った吸収速度でしか魔素は吸収されない。
だから実戦では、魔素の消費を調整することが大事みたいだ。
「分かりました」
「疑問があったらどんどん聞いてね」
「はい!」
そんなところで授業の終わりを告げる鐘が鳴った。
「はい、じゃあ魔法の授業は終わり。次の授業は教室で『社会』だから急いで教室に戻ってね」
先生は「次の授業準備をしてくるね」と足早に校舎に戻っていった。
ゆっくりと教室に帰っていたら、後ろから背中を叩かれた。
「おい、ピート。聞いてくれよ」
「何?」
「俺、マリーダに勝ったぞ」
「何で?さっきの魔素貯め競争?」
「違う」
レイブンの話をつかめずにいると、マリーダが何か言いたげな表情をしながら、こちらに歩いて来た。
「あんな酷い教え方が上手くいった意味が分からないわ」
「うるせぇ。俺の教え方が正しかっただろ?」
話を聞いてみると、どちらが先に教えているクラスメイトが魔法を使えるようになるかで競っていたみたいだ。
結果的に、理屈を教えたマリーダの生徒が上手くいかなくて、感覚で教えたレイブンの生徒が魔法を使えたらしい。
……それにマリーダは納得できないみたい。
「でも、俺が魔法を使えるようになった時も感覚だったような……」
ボソッとそんな事を口に出すと、マリーダは去っていった。
「ピートも何か分からないことがあったら、天才の俺に聞いてくれよ!」
自慢げな表情でマリーダを揶揄いに走るレイブンの後を追って、俺も校舎に戻った。
教室に入ると、既に教科書を開いて待っているクラスメイトが多かった。
そうだ、次は座学なんだ。
この世界の『社会』って何を勉強するんだろう……。
物語の世界の授業って感じがして胸がザワザワする。
勇者の物語とか聞かせてくれるのかな。
キリク先生が教室に入ってきた。
「よし、皆んな席に着いているね」
「今日は貴族社会について学習するよ」
貴族社会?
キリク先生が話し始める。
「貴族は、国王から任せられた領地を統治するのが役割です。だから、貴族の子供は幼い頃からずっと勉強をしています。貴族の生徒達は、それが理由で平民クラスと違い、学園を三年ではなく二年で卒業することが出来ます」
ずっと勉強って、俺には無理だ。
隣でレイブンが「貴族ずりぃ」って言ってるけど、幼い頃からずっと勉強なんてレイブンが耐えられるとは思えない。
「先生!勉強してきたのに、どうして学園に通うの?」
一人が手を挙げて質問する。
「この学園を初代の国王様が、貴族と平民が共に手を取り合える学びの場として建てたからだよ。貴族と平民がお互いを知る。その大切さを学んで欲しいと願って、ね」
そう話す先生の顔は少し曇っている気がした。
「ところで、今の国王の名前をわかる人はいるかな?」
「じゃあ、ミアさん」
「イーダン・アストラル国王様です」
「正解です!」
「せっかくだから、第一王子様と第二王子様に触れておこうか……と思ったけど、話逸れるから、また今度にするね」
それから、先生は貴族の仕事内容を教えてくれた。
税や法律、治安活動などなど。
大変なんだなぁ貴族は……。
社会の授業は、正に勉強って感じがする。
期待していた内容とは違った。
気づけば、だんだん嫌になってきた自分がいる。
ほら、あのレイブンも寝てしまったよ……。
「これで今日はおしまい、また明日」
授業終わりの鐘が鳴る。
剣や魔法でウキウキしていたけど、中身は普通に元の世界の授業とそんなに変わらなかった……。
「あんた達、ちゃんと聞いてた?」
ぼーっとしていた俺とさっきまで寝ていたレイブンを見たマリーダが詰めてくる。
「聞いてたよ」
俺はマリーダに答える。
「じゃあ質問するけど、貴族の治安活動と冒険者の活動の違いは何?」
「貴族は偉そうで冒険者はカッコいい!だろ」
「貴族は税金でその活動して、冒険者は依頼が……」
「あんた達……テスト終わったね」
マリーダの目は冷たかった。
「マリーダちゃん、一緒に帰ろう!」
クラスの女子がマリーダに話しかける。
「じゃあ、勉強頑張ってね!天才のレイブン君にピート君」
マリーダは俺達に手を振ると、その子と一緒に教室から出ていった。
多分、マリーダはレイブンに負けたのが悔しいんだ。
「俺達も帰ろうぜ」
レイブンが伸びをする。
「帰るか」
俺は席を立つと、レイブンと一緒に教室から出た。
「これからどうする?」
「ボボロ達を遊びに誘ったから、あとで皆んなで何して遊ぶか決めようぜ」
「本当か!?」
「本当だ」
俺とレイブンは階段を駆け降りた。
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