第15話 ルミエール王立学園 入学式
王都に到着してから三日が過ぎた。
遂に入学式の日がやってきた。
俺とレイブンは校門の前で制服に身を包んで立っていた。
学園の周りは新入生で溢れかえっていた。
貴族の生徒は執事やメイドと一緒に入学式の会場に次々と入って行っているから、とても分かりやすい。
その胸にはしっかりと王冠のバッヂが付けられていた。
「でも、俺達が通う校舎はここじゃないんだよなぁ」
目の前の豪華な校舎はマリーダが言った通り、貴族専用の校舎だった。
俺達は貴族校舎の隣にある校舎に通うみたいだ。
「どうして貴族と平民は校舎が別なんだよ」
レイブンのそんなぼやきに納得する。
「本当にそうだよな」
それでも、学園生活の始まりに気持ちは高ぶっていた。
「そろそろ入学式が始まりそうだぜ」
レイブンにとっては人生初めての学校で、初めての入学式だからか、ずっと歩き方がぎこちない。
校門の前にいる生徒達が続々と学園内に進んでいく。
俺たちも学園に入り、入学式の会場となっている貴族校舎のホールに足を踏み入れた。
席はどうやら自由みたいだ。
皆んな自由に座っている。
ホールの一階は見渡す限り、平民生徒達で席が埋まっていた。
多分二階に貴族生徒がいるのかな?
「下にいるのは平民だってよ」
「どうして平民と我が同じ会場なのだ?執事よ」
平民を蔑む声が上から聞こえてくる。
「貴族って感じ悪くね?」
レイブンは俺の口を慌てて押さえると、首を切るジェスチャーをした。
――学園の鐘の音が鳴り、生徒達のざわつきが先生の入場と共に静かになる。
厳粛な雰囲気の中、入学式が始まった。
舞台上に次々と学園の先生が入場してくる。
スーツではなく、魔法使いのローブや鎧を着た先生達を見るのはとても新鮮だった。
この世界ならではの服装だ。
先生が揃ったところで司会の人がはなし始めた。
「新入生を代表して、ルミエール王国第二王子ルル・アストラル様の御挨拶です」
ホールにいる全員が起立する。
さっき俺にあのジェスチャーをしたレイブンは隣で気持ち良さそうに眠っていた。
言ってることとやってる事が無茶苦茶である。
舞台から遠くの席だからよく見えないが、白髪の人が舞台に立つ。多分あの人が第二王子だろう。
「平民と貴族が手を取り合うことを目的に建てられた学園で、平民と共に学ぶことが出来て私は幸せである。皆!この学園では身分関係なく生活する事を心掛けよう!」
大拍手と共に王子の挨拶は短く終わった。
「王子様ー!」
「平民と手を取り合うねぇ……」
王子の声は上の貴族に響いてなさそうだな。
「続いて、先生方の紹介です」
長い長い先生の紹介が始まった。
個性的な先生が多く、退屈しなかったが、生徒の多くは眠りについていた。
レイブンはずっとスヤスヤだ。
「最後に学園長からの挨拶です」
最後ぐらいは起きてくれ。
――俺はレイブンの肩を叩いて起こした。
眠そうな顔で目を擦るレイブン。
「ん?……終わったのか?」
「レイブンに……伝えないといけない事がある」
「……なんだ?」
「王子の挨拶中に寝ていたぞ」
俺の言葉にレイブンの表情が固くなる。
「みんなが起立していた時に、レイブンだけ寝てたから目立ってたなぁ」
俺の首切りジェスチャーと共にレイブンの顔が青ざめていく。
口をパクパクと動かしているが声には出ていない。
これで……レイブンは最後まで起きている気がする。
学園長の話は小難しくて理解できなかったけど、学園長は物語に出てくる大魔法使いという感じの威厳を感じる風貌だった。
「これで入学式を終わります。新入生の皆様は、校舎の壁に貼られている名簿を見て、各クラスに向かってください」
レイブンと一緒に校舎へ向かう。
校舎に向かうとき、レイブンはずっと貴族にびくびくしていた。
大丈夫だよ……貴族は平民を見てなさそうだから。
「あの貴族、お前を見てないか?」
貴族に怯える様子が面白かったから、からかってみる。
するとレイブンは、物凄いスピードで貴族校舎の門から出ていった。
ビビり過ぎだろ。
校舎にたどり着くと、壁の前に張り出された壁を大勢の生徒が見ていた。
レイブンはどこにいったんだ……?
「おーい!ピート!あったぞ名前」
レイブンは張り紙に集まる生徒達の隙間から出てきた。
「よく潜り込めたな」
「だろ?」
レイブンは既に、さっきのことを忘れているみたいだ。
いつもの表情に戻っている。
「それでどこのクラスだった?」
「Aクラスだ」
俺たちは昇降口から二階に上がり、Aと書かれたクラスに入る。
既に数名が席に座っていた。
黒板には、『好きな場所に座るように』と書かれてた。
というわけで、俺とレイブンは中央の最前列の席に座った。
「授業を受けるとか、まるで貴族みたいだ」
レイブンは最前列の席に座り授業を楽しみにしている。
でも……なんでだろうか。
レイブンは授業が始まったら寝てる気がするんだ。
しばらくして、生徒が何人か入ってきた。
そして、聞き覚えがある声の女子も入ってきた。
マリーダだ。
「はぁ?あの二人と同じクラスなの!?」
開口一番に俺たちを傷つけるマリーダ。
「よろしくな、マリーダ!」
レイブンが握手をしようと立ち上がる。
「よろしく」
マリーダは握手をせずに席に座った。
マリーダも最前線で授業を受けたいみたいだ。俺達の隣の列に座ってる。
手を振ってみたけど無視された。
「はい、皆んな揃ったかな」
黒髪に眼鏡をかけた若い男性が教室に入ってきた。
「このクラスを担当することになったキルクです」
「早速だけど、軽く名前と何か一言をお願いしようかな」
「じゃあ窓側から」
お、早速マリーダからだ。
「マリーダです。魔法が得意です」
そんなに短くていいんだ。
マリーダに続いて次々と自己紹介が進められていく。
「ミアです。野菜作りが得意です」
ミアは青髪で大人しそうな顔をしている女子。
「ボボロです。狩りしてます」
レイブンが“狩り”の一言に反応する。
ボボロはチリチリとした茶髪で顔がとても濃い。
一度見たら忘れない顔だ。
「ジャックです。冒険者になりたいです」
レイブンが“冒険者”の一言に反応する。
レイブンと仲良くなりそうな男子が多いな。
ジャックは長髪の黒髪で目つきが鋭い。
覚悟がありそうな顔つきをしている。
さて、いよいよ俺の番だ。
「ピートです。夢は……」
ガッシャアアン!!
突然、隣のクラスから大きな物音と悲鳴が響いてくる。
あまりの衝撃音にクラスの空気が凍った。
廊下に出てみると、一人の男子がうずくまっていた。
そして、隣のクラスから怒号が聞こえてくる。
「馴れ馴れしく俺に『よろしく』だと?」
教室から銀髪の男が出てきた。
そいつは、そいつを止めようとした先生に手を向けて制止すると、うずくまった男子の体に足を乗っけた。
「立場を弁えろ!」
「だってよ……『学園は貴族と平民が手を取り合う場所』だと王子様は言っていたんだ」
「誰もあんな言葉を真に受けていない」
どうして誰もあの銀髪を止めないんだ。
先生、しっかりしてくれ。
気づけば体が動いていた。
「……誰だ?」
銀髪の男が青い眼で俺を睨みつける。
「その足どけなよ」
「誰に向かって口を聞いているんだ……平民」
「銀髪のお前だよ」
その言葉に銀髪の男は、腰の剣を抜こうとする。
俺がそれに身構えたところで、キリク先生が止めに入った。
「はい、そこまで」
先生の速さに全く気づけなかった……。
「キリクか……手を離せ」
「ルシアン・シルバーウォック君。お父様はそんな事をさせる為に、この校舎で学ばせようとしたのではないよ」
「チッ」
ルシアンは足をどかすと、教室に戻っていった。
「じゃあクラスに戻ろうか」
振り返ると、Aクラスのクラスメイト達がドアから顔を出して見ていた。
先生は手で戻れのジェスチャーをして、俺を連れてクラスに戻った。
「さて、自己紹介の続きから始めようか。ピート君」
先生に指名されて改めて自己紹介を始めた。
「ピートです。夢は大冒険をすること」
何人かのクラスメイトと目が合った気がする。
――全員の自己紹介が終わる。
「最後に質問があれば答えるよ」
待ってました!
「先生、図書館に入りたいです!どこから入れますか?」
「残念だけど、平民の人達はテスト期間しか図書館入れないから今は入れないよ」
「……わかりました」
本を調べるのは、テスト期間までお預けかぁ。
はぁ……。
「今日は授業ないから解散。また明日」
先生は最後に一言だけ残して教室を出た。
――自由になったクラスで交流が始まった。
レイブンはボボロのとこに行ったみたいだ。
俺は誰に話しかけようかなぁ……。
そんな事を考えていたら、マリーダに声をかけられた。
「“あの”ルシアンに喧嘩を売って大丈夫なの?」
「どういう事?」
「彼は、問題児すぎて父親から平民クラスに送られた貴族だから」
あいつ貴族なんだ。
だから平民にキレていたんだな。
「もしかして俺、殺される?」
「流石にそれはないと思うけど」
じゃあ気にしなくていいか。
「マリーダちゃんもこっちきてよ」
マリーダは他の女子のところに行った。
今度は男子に声をかけられた。
「ピート君だっけ?リュウって言います」
さっき俺と目が合った人だ。
緑髪が印象に残っていたんだよね。
「よろしく、リュウ」
「冒険好きなの?」
「好きだよ。まだどこも行けてないけどね……」
「僕も冒険好きなんだ。どこ行ってみたい?」
「俺はね、まずこの世界を一周してみたい」
「すごい夢だね!僕はね……
――学園生活初日。早速、色々起きたけどなんとかやっていけそうです。
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